この強気の背景には、被害届のペプシ缶の製造日にバラツキがあるにもかかわらず、被害が6月の非常に短期間に集中している点や消費者の中からも虚偽報告が発見され逮捕者が出た点、さらに食品医薬品局(FDA)がシアトルで発生した最初の事件は人為的に後から注射針を混入したと認める見解が発表されるなど、自社の分析や捜査機関への継続的要請が功を奏した結果があったからと言える。
その後、FDAはこうした偽証による犯罪が最高25万ドルの罰金と懲役刑が科せられると警告し、公式発表でも「苦情の信憑性を確認できる事例は一件もなかった」とコメントした。こうした一連の周辺の報道を経て、注射針混入事件は21日(発生から12日目)には完全収束したが、当時の経営トップは、過去の振り返りの中で、「2件目の発生のときに、本件は経営トップの問題に発展すると直感し、対処を決定した」と明言している。
今回のアクリフーズの問題では、新聞報道から「石油・機械油のような異臭がする」とされた時(11月13日)から外部調査機関への分析依頼(12月4日)、さらに残留農薬の検査が12月半ば過ぎという状況からも、原因究明能力や危機管理能力に疑問が生じるのも無理はない。
ただ、この問題では、検出された農薬の混入経路が未特定であるばかりでなく、社内外全ての混入経路の可能性が否定されていない状況で、回収の決定が遅れていれば、さらに被害は拡大していた可能性も高く、コンプリート・リコールを早期に英断した取締役会の判断は評価したい。
かつて他の食品業界でも、工場内での差別、セクハラ、パワハラなどの職場環境が原因で社内関係者による食品汚染事故が引き起こされた事例もあり、今後の本事件の捜査や社内の調査委員会による従業員へのヒアリングなどの進捗・結果報告を注意深く見守る必要がある。
次回は、本事件のその後の進捗、風評の流れについて考察した結果を紹介する。
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