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コラム

朝日新聞10年生記者、ビジネスに挑む

「ネットは荒れるでしょ?」と言われても、外の声を聞きたかった

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今回、出演したスクーの番組は「朝日新聞社はどうすればこれからも稼げるのか」というタイトル。渋谷の繁華街からちょっと外れたマンションの6階にあるスタジオに入ると、緑色のマグカップに入ったココアが出てきました。友達の部屋に遊びにきているような雰囲気です。

番組が始まると、コメントの波が押し寄せてきます。視聴者がフェイスブックなどでログインして、感想や質問を書き込める仕組みです。数百人は見ていたのでしょうか。

緊張すると思っていましたが、コメントの流れを追っていくと、質の高さと速さが快感になっていきます。私から「新聞はどんなビジネスを始めたら良いか」という問いをネット上の「生徒」に投げかけると「カフェをしてはどうか」などの答えが飛び交います。

「鹿児島から見ていますよ!」という書き込みも入ってきます。「新聞はマスゴミと呼ばれる」という趣旨のコメントも目についたので「今夜みたいに、社員が顔を出すことでそのイメージを変えたいです」と伝えました。

コメントがコメントを呼び、小学生が「ハイ!」「ハイ!」と手を挙げるように、学校の授業の中に放り込まれたような錯覚に陥りました。

スクーに出る前、ライバルの新聞社の記者に「どうせネットだから荒れるんでしょ。俺だったら出ない」と言われました。あるいは「それって、むかし流行したeラーニングでしょ」と冷たく言われたりもしました。会社のシステムにアップされた動画で、社長のつまらない挨拶や、研修を嫌々受けているイメージがあるのかもしれません。

スクーのコメント欄は、実名が多く「上品さ」が保たれています。番組の冒頭でチャイムが鳴って「授業」の雰囲気を演出したり、生徒が答えやすいよう、「先生」が回答を選択肢形式にして問いかけたりするなど細かい工夫が実に多い。良い質問には、ほかの生徒からほめられる機能も付いていて、多くの支持を集めたコメントほど先生に取り上げられる確率が高くなります。

司会役の女性は、「アナウンサー」ではなく、「学生の代表」という立場で、あえて素朴な質問を投げかけてきます。今後のマネタイズには課題が少なくないですが、会員数を今年中にいまの6万人から100万人に増やす目標を掲げており、目が離せません。

私たちの挑戦、朝日新聞の挑戦

新聞は1世帯ごとに購読し、テレビはお茶の間で見る。そんな「家族単位」だったメディアは、手のひらにおさまるようになり、家の外でも接するようになり、さらにパーソナルになった。

一見ふざけた動画の中に、自分と同じような価値観の人を見つけたり、大げさな哲学ではなくても、誰かが勝手に投稿した生活のノウハウを伝える動画に心が軽くなったりする。着ぐるみをかぶって小学校5年生向けの算数をタダで教えている熱い先生がいる。

いまの携帯電話の所有台数のうちスマホが占める割合は5割、およそ5年後には8割前後になるという調査があります。そうなると、文字を読むより、小さな画面で動画をみる方が楽になる可能性が――。

ユーチューブの人気ぶりや、スクーなどの動きを見ていると、消費者にじわりと受け入れられるような方法で、社会が変わっていくのを感じます。同時代に生まれて、同時代に生きている私も、その変化の渦に入り込みたいです。


【編集後記】
今回で6回続いたコラムはひとまず終わりです。朝日新聞の中で昨年9月に本格始動したメディアラボ。事業提携、出資、投資、実験、発信。新聞ビジネスを変えるため、19人のメンバーがありとあらゆることに挑戦しています。東京・築地にあるラボのオフィスには日々、ベンチャー企業の経営者、コンサルタント、学者、大企業の新規事業担当者、色々な人が来ます。

「夜のメディアラボ」。この日は、ガラポンの保田歩社長、ランサーズの秋好陽介社長が来てくれ、朝日新聞社員と激論を交わした。

夜のオフィスにベンチャー企業の社長を呼んで、軽食をつまみながらディスカッションをする「夜のメディアラボ」も開きます。先日はガラポンTVをつくった保田歩社長を呼びしました。ガラポンは4カ月間全てのテレビ番組を録画し、スマートフォンでいつでも見られるような機器です。

保田社長は、自社の機器がテレビ局から客を奪っているのではなく、外出先や職場の空き時間など「視聴者のテレビとの接触時間を増やしている。新しいテレビの見方が広がっている」と熱弁をふるいました。メディアの接し方が変わっていることが皮膚感覚でわかりましたが、いま、ラボのオフィスそのものが出会いの場や発見の場になりつつあります。

このアドタイの連載は、私にとって「ネットのメディアラボ」でした。多くの人との新しい出会いがあったからです。東京都内のある就活中の大学生は「サラリーマンになったらつまらない人生が待っていると思っていたが、社会に出てもいくらでも挑戦できることを知った」とメッセージをくれました。見知らぬ人です。株式会社「地域活性プランニング」は地方のブランディングをおこなっている会社ですが、コラムを読んで担当者の斉藤哲也さんがオフィスを訪ねてくれました。

同社は街中のオフィスをドラマなどのロケ地として使うビジネスもおこなっているのですが、斉藤さんは「場所にも様々なメッセージがつまっている。オフィスやビルもメディアですよ」と教えてくれました。メディアラボのオフィスもどこかの映画やドラマで使われたら面白いです。

「ネットのメディアラボ」で再び、皆様とお目にかかれる日を楽しみにしております。