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CMプランナー・福里真一 × 作家・白岩玄 ヒットコンテンツの企画術(後編)

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人間のある種の残酷さと戦う企業

白岩:福里さんにお会いする前に、福里さんの作品集を拝見したのですが、富士フイルムのお正月のCM(富士フイルム「お正月を写そう♪2013」)も福里さんの企画だったんですね。僕、このCMが大好きで、エッセイでもこのCMについて書いたことがあるくらいなんです。

福里:広告業界では、ほとんど評価されなかったCMなんですけどね…。

白岩:初めて見た時、ちょっと涙ぐんだくらい好きです。

福里:富士フイルムは、写真やフイルムを主力事業にしていた会社でしたが、今や写真事業の売上は全体の数パーセント。そのことを、「お正月を写そう」という毎年恒例のCMの場を使って、伝えてみよう、ということでつくったCMです。

白岩:僕が、このCMをいいなと思ったのは、デジカメ、スマホが浸透し、フイルムのカメラが使われなくなっていく中、富士フイルムが業態変革を実現したこと。そして、そのことをきちんと伝えていたことです。あまり、そういう部分を見せる会社は少ないなと思っていたので。

福里:たしかにそうかもしれませんね。僕は20年くらい、広告の仕事をしていますが、多くの会社でその会社のメインとなる商品が切り替わっていますから。むしろ、切り替えられた企業だけが生き残っているというか。

白岩:でも、そういうところに人の残酷さを感じるんですよね。飽きっぽくて、次々と新しいものに飛びついてしまうところというか。でも、そういう人の移ろいやすさとか残酷さとか、そういうものときちんと戦っている企業のありようが表現されていて、とても感動したんです。

福里:なるほど。それも、僕の中でも反転ポイントの一つかもしれません。自分の体質的には変化とか新しいものがだいたい好きではないんですね。だから、クライアントからのオリエンで新商品の話を聞いても、「また、新しいものが出てきて、ちょっとめんどくさいな」と思っているところがあります。でも自分個人の意見としては否定的であっても、「人類がそれを選ぶなら仕方ないか」と思って、パッと気持ちを変えてしまう。

白岩:前向きというのとは違いますか?

福里:うーん、前向きとは言いたくない気もしますが。そもそも、広告の仕事をしている時点で、そういうことの片棒を担いでいるわけですし、そこで急に否定的になってもしょうがない。「それを人類が求めるなら、思いっきり広めてしまおう!」という感じでしょうか。

白岩:「野ブタ。をプロデュース」がヒットした時、実はその状況に生理的に嫌悪感を抱いてしまったんです。自分が書いた作品自体は大事なものですが、書籍は無尽蔵にコピーされて販売されていくじゃないですか。自分がそこには何も関わっていない。そういうことがよく理解できなくって、拒絶反応があったんです。それが、広告の仕事を選ばなかった理由にもつながっているかもしれません。広告って、そうやって商品を売る片棒を担ぐ仕事だなと思って。

福里:広告のクリエイターの中にも、その問題を真剣に考えていった結果、どんどん経営の川上に入っていって、最後は経営トップと直につながって、何を売るかから関わる人も増えていますね。

白岩:福里さんは、そういう方向にはいかないんですか?

福里:まあ、いかないでしょうね。そういう人のことは立派だなと思いますが、自分の得意なことではないので。それに、自分が川上に立って、いろいろジャッジできる立場になったとして、どういう基準で良い、悪いとジャッジできるのか、わからないじゃないですか?山に籠って仙人みたいな暮らしをしているなら別ですが、この世の中に生きて、なおかつ自分が正しさを体現しようとするのは無理があるなと思ってしまうんです。というか、僕には無理そうです。

白岩:ある種、客観的で冷めた目で見ているから広く届く広告ができるのかもしれませんね。

福里:そうですね。世の中って、自然とこうなっちゃったというところがあるわけですから、あまり神様目線で考えてもしょうがないんじゃないのかな、と。それよりは、自分のできる範囲で、目の前にあるCMをなるべくおもしろくする、ということでいいのかな、と思っています。

——コンテンツの特性の違いで、お二人の企画・発想法には違いがありましたが、企画や企画の中のキャラクターなど、プロデュースの対象物との付き合い方、距離のとり方に、少しお二人の共通点があったように思います。ありがとうございました。
(本文中・敬称略)

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