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「計画外の購買行動」は、ターゲットの心の中に「イイネ!」を三つ揃えれば起こせる!? ——『売れるロジックの見つけ方』発売記念、共著者特別対談<第2回>

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[前回の記事]「マーケッターとデータサイエンティストが組むと何が起きる?」はこちら

行動経済学により「人間が必ずしも合理的な行動をとらない」ということが証明されたが、それはまさに購買活動にこそあてはまることなのだ。
例えば、日々の必需品を買いに行っているはずのスーパーマーケットの“レジを通る商品の8割を「計画外の購買商品」が占めている”といった事実は、その象徴的事例と言える。このような生活者の不思議な行動・・・「計画外の購買行動」について、行動経済学を引用し、解説した例はこれまでにも数多くあったが、「そのような購買行動を意図的に引き起こさせるという試み」そのものについては、「非合理的な取り組み!?」と初めから諦められてしまっているせいか、ほとんど例がなかったように思う。
先月発売となった『売れるロジックの見つけ方』は、そんな計画外の購買行動を発生させる「生活者の心の中の、不思議な購買ロジック」=売り手側にとっての『売れるロジック』・・・直観的で非合理的な心理変容の仕組みをLPOツールを用いることによって解明し、それを他のあらゆるメディアや販売の場に展開させることにより、現象としての“売れる”の拡大再生産を実現させる・・・ということに挑んだ意欲作だ。
本書籍発売を記念して、著者でありマーケッターである後藤一喜氏と、同じく著者かつデータサイエンティストの山本覚氏に、「これからのマーケティング」について語ってもらった。

B2B2C 代表取締役・アカウントプランナー 後藤一喜氏(右)、データアーティスト 代表取締役社長 山本覚氏(左)

現代人の購買行動に、合理性はない

後藤:前回お話した「3個セット5000円の氷のうがバカ売れ!」といった常識的に考えれば説明のつかない不可思議な現象こそ、私は現代人の購買行動の、一つの象徴と言えると思うのですが、このような現象はなぜ起こるのだと思いますか?

山本:1個1500円の氷のうが3個セットで5000円。合理的に考えたら、まず割高ですし、そもそも氷のうは一つあれば足りますから「3個セット5000円の氷のう」がバカ売れするというのは・考えられませんよね。後藤さんが指摘した「知らなかったから」とか、「プレゼントに使えるから」以外にも理由はありそうですが、いずれにせよ合理的な理由とは言い難いので、このヒットを事前に予見することは不可能という点では、私も同意見です。

後藤:そうですよね。合理的で計画的な購買行動ではない「直感的な購買行動」なんです。だから従来の
①「そろそろ古い氷のうが寿命だから、新しい氷のうを買おう」→②「購買場所は以前買った薬局かドラッグストアの何れか」→③「必要数量は当然1個」、「購入予定価格は以前に買った時と同じ1500円前後」
といった、伝統的で合理的な購買ロジックでは「3個セット5000円の氷のう」がバカ売れという現象については予測することも、説明することもできないのです。

さて、ここから先は現象面(バカ売れしたという結果)から考えた、私の仮説ですが、多分
①「おしゃれな輸入雑貨だなぁ?」→②「売り場では見たことないけど、通販で買えるんだ?」→③「1個1600円なら失敗しても痛くない金額?」→④「3個だったら2個はプレゼントに使えるからちょうどいい!」
といった心の中の“ひらめき(=直感)”の連鎖で、例えばこの内の3つに「イイネ!」がついたら即買い!といったメカニズムなのではと私は思います。ただ、合理性にも計画性にも裏付けられていない行動なので、従来の需要と供給や合理性をベースにしたロジックでは説明ができないので、需要を創造することは無論、販売を促進させることもできないというのがこれまでの実情だと思います。

そもそも、従来マーケティングにおいて「購買」と「消費」とは、まるで同義語であるかのように扱われてきたのですが、山本さんは「消費」とはどういう意味だとお考えですか?

山本:モノを使って壊れたり、食べてなくなったりすることがそれにあたると思います。

後藤:そうですよね。本来は「消費」というのは「その価値がなくなるまで、使い潰すこと、そして必要なモノを消費してしまった結果生じた不足を補填するために、新たな購買行動が発生する!」という構図だったはずです。
だから「消費」と「購買」とはひと塊のセットのような概念として捉えられていたわけです。本来は異なる意味を持っていたはずのこの二つが同義語のように扱われていても私たちはあまり違和感を感じなかった。

しかし、現代社会における購買は「消費したから購買する」というロジックではもはや説明できなくなっています。「飽食の時代」と言われる現代は、食べ物だけでなく、衣服も家電も消費財の全てが予め満ち足りているので、例え消費したとしても、すぐに補填する必要は生じない。基本的に「間に合っている」から、売れないわけです。しかし、その一方、「3個セット5000円の氷のう」のように本来必要が無いはずのモノでも、「イイネ!」が3つ揃えば売れてしまう! もちろん異論はあるでしょうが、私はこれこそが、現代の“売れる!”の実態であると考えており、このメカニズムの解明こそ『売れるロジックの見つけ方』のテーマなのです。

山本:ちなみに、バブル期にはモノが売れていましたよね? あのときは、今以上にモノが溢れていたと思いますが、それなのに今以上に売れていたというのはどうしてなんでしょう。

後藤:バブル期の購買行動を支えていたのは、「モノを買うことでさらに豊かになれ、幸福になれる!」という、敗戦以来の貧しい時代からの幻想を社会全体がまだ色濃く引きずっていたからだと思います。自分たちがすでに豊かであることや、満ち足りていることに、まだ気付いていなかったので社会全体が「買えるだけ買ってしまう」とか「必要のないモノまで買い漁る!」といった状態に陥っていた訳で、だから飽食の時代などと評されたのだと思いますが、「イイネ!」が3つ揃えば買ってしまう!といった構造そのものは今と同じで、それはおそらくバブル期以前に既に生まれていたのだと思います

山本:私達世代は、単純にモノを買うことで幸福になれるとは考えませんが、「モノを消費したから買う」のではなく、「まだ使えるモノがあっても、欲しければ買う、買い替えてしまう」いといった点では確かに共通点があるのかも知れませんね。

後藤:私もそう思います。現代人の購買行動に合理性や計画性はもはやなく、端的に言えば、8割以上の場合、客観的に見れば、本人以外にとってはどちらでもよい(笑)と言える「買い替え」です。しかし、これはある意味では成熟社会の証とも言えるので、必ずしも忌むべき現象とは言えません。そしてこのような購買行動を突き動かしているのは、もはや“不足”ではなく“気分や衝動”であり、だからターゲットの心の中に「イイネ!」が三つ揃えば売れる、と言ったわけです。

山本:しかし、バブル時代と比べると所得は減っているし、将来への不安も根深い。そして何より、今の世の中においては「消費は美徳」という風潮は全くありません。購買に対するハードルは上がっているはずですから、バブル時代より強力な「買い替え理由」を複数用意しないと、中々「イイネ!」は三つ揃わないんじゃないでしょうか?

次ページ 「LPOツールによるテストを本当に活用するには?」へ続く