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コラム

右脳と左脳の間のほじって食うとこ

まったく甲斐性のない男が会社を立て直そうとした話

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また、面談制度をつくった。
(そうです。この会社、社員とロクに面談しなかったんです)

面談のシートは、簡単なつくりだ。
シートは大きく3列に分かれている。

左の列に「前期の目標」。つぎに「前期の目標に対しての結果」を記入。右側には、それらを受けた「来期の目標」を書く。

これは、電通の面談シートを簡略化したものである。
社員時代は、なんでこんな作文をしなければならなかったのか、まったく意味がわからなかった。

悩みのひとつに「どんな人間を目指すのかという像がハッキリしない」という問題があった。社員は全員、メチャクチャ優秀な人間ばかりだが、大きな広告代理店のように「こんなクリエイティブディレクターになりたい」「私はアートディレクターとしてこの人のように大成したい」「映像極めたい」「監督になりたい」「あんなプロデューサーになりたい」という、見上げる存在がぜーんぜんいないのだ。

面談のテーマは「あなたは5年後にどんなすごい人物になっていたいか」だけ。
そのために次の半年、何を具体的にやるか。それを、社員と盛り上がって決める場だ。そこで決めた制度は、すぐ実行にうつす。

PARTYという法人の法人格やブランド、事情は、どうでもいい。

読みあさった本には「部下には未来の話をしろ」と書いてあった。

ぼくは、未来とは諸刃の剣である、と考える。

たとえば、ブラック企業に務める社員が鬱になる理由は「辛い現状」に対してではなく「この辛さがずっとつづく未来」のことを憂いて、鬱になるのだ。

業界で「加圧トレーニング」といわれる、無理難題を言ってくるクリエイティブディレクターの巨匠がいる。対峙するクリエイターや営業は鬱になる。ほとんど「加鬱トレーニング」だ。そういう状態のとき、判断が「巨匠に怒られないか」に終始してしまい、もっと大きな目線で見れなくなる。実は、巨匠のおかげでスケールの大きな仕事にあずかれているという事実、大きな未来の目線が抜け落ちてしまう。

新入社員が面接するとき「その会社に入ることが目標のすべて」になっている人間は、だいたい落とされる。
その先の未来、何をしたいか、がいちばん大事なのだ。

そもそも、宇宙規模で見たら、ただの塵芥ではないか。
ぼくらは全員虫ケラなのだ。気楽でいい。
どう生きたっていい。

問題は、自分。
自分の人生、自分の未来。

面談を、社員ひとりひとりの未来が、どうイケてるものになるかを、盛り上がって話す場所と位置づけた。未来とは、考えようによって、絶望的にもなるし、希望に満ちたキラキラしたものになる。この未来のサジ加減ひとつで、その人間のモチベーションと能力は激変するのだ。

朝礼、社内スローガン、面談。

そんな簡単なこと、他のどの会社もやっているようなことを、意義を問いなおして行っただけで、会社の雰囲気は見る見るうちによくなっていった。
むしろ以前よりも改善された。
ヨハネスブルグが代官山に戻った。

大企業で行われる部会や面談は、社員の適切な成長を願ってつくられた、よい制度だ。しかし、ルールをつくったときの意図を理解していない人がほとんどであったら、もうやめたほうがいい。今の状況にあわせて、刷新した方がいいのかもしれない。

PARTYの社員制度には、まだまだ問題はある。
打ち合わせの効率が悪い。
もっとプロフェッショナルとして厳しくなければならない。同時に、もっとチャンスをあげて伸ばす方法をルール化しなければならない。
超優秀な彼らがスターダムにのし上がる道のりを、ぼくらがどうつくってやるか。
課題は山積みだ…。

でも。

PARTYは通年行事として、社員全員で伊勢神宮にお参りに行く。

ことしは、みんながお祈りをしている横顔をちらりと見て、少し泣いた。