シュンペー君は、大手広告代理店ではたらく、プランナー4年生。
シュンペー君は「かなりアイデアが突飛で面白い」というふれこみで入社した。
自慢じゃないけど、オリエンが来たときにもう、パッと頭に電球がついて思いついちゃうんだなこれが。
まわりのみんなや営業からも「シュンペーは優秀」という呼び声が高い。
いつか、S本さんやT崎さんのような、日本中誰でも知っている、どでかいCMやキャンペーンをつくってやる。
合コンでも「あのCMつくったのオレなんだよ」とか言って、女の子に「ウソ?あのCMをぉ?すごいーエモキュン」などと黄色い歓声を浴びて、自慢できる日がきっと来る。
……きっと。
ある日、シュンペー君のチームに、新規の競合CMキャンペーンが舞い込んだ。
予算は5億。
よし、今度こそ!
社内、企画もちよりミーティング。
シュンペー君は、さっそくアイデアを10個も用意した。
チームメンバーは6人。それぞれが、10案ずつ持ってきた。
みんな、優秀なんだよなあ…。みんなの案、全部おもしろい。
(この時点で、彼のアイデアが採用される確率は、6分の1)
今回は、予算が大きいので、社内コンペをするんだって。
……うわあ、あのアートディレクターがいるチームか。あの人すごく面白いんだよなあ。
もうひとつのチームは、えっ、あの有名クリエイティブディレクター!?
3チームとも、同じように6人のチームでアイデアを出しているんだって。
(この時点での採用確率は、18分の1)
……よっしゃ、自分のアイデアが、プレゼンに出す案になったぞ!!!
CDが、ちょっとぼくの若いセンスがわからないのか、いちばんオススメのアイデアじゃなかったけど、よかったよかった。
ちなみに、プレゼン一週間前にわかったんだけど、
これ、3社競合だった。H堂とA社。まあ、いつものことだよね。
(この時点で、54分の1)
そしてプレゼンへ。
オレのアイデア、メッチャウケてる!
こ、これは採用かも……!
後日、クライアントからウチの会社だけが、呼び出された。
よし、いよいよ、正式採用だな!
クライアント「こちらのアイデアがとても面白く、また商品訴求に叶っていると思いました。今回は御社を採用したいと思います。
(や…やったー!!!)
クライアント「ただ一点、この案のまま、もっと【この商品の新しい甘さと新食感】をコトバで伝えてほしいのです。この表現だと他社の商品と差別化できません」
うーん。このコトバを入れるとしたら、ここしか……。
で、でも、30秒に入れようとすると、いちばんやりたかったココのところが、うまく伝えられないよ!15秒にかぎっては、もう違うCMになっちゃうよ!
シュンペー「あの……すみません。このタレントのセリフをけずって、ナレ入れるとか、しかなくなっちゃうんですけど」
クライアント「なるほどなるほど。そうなるんですね」
シュンペー「いやでも、そこ、この企画でいちばん面白いかな、と思っていたところで…」
クライアントの顔が少しこわばる。「うーん」
まわりを見回す。営業がなぜか4人もいるのに、全員、沈黙。
誰も助けてくれない。これじゃこの人数、逆効果だ。ぼくにとってプレッシャーだ。
……いや、顔に書いてある。
「競合に選ばれたばかりだから、言うことを聞け」と。
クライアント「……少し、面白さは減るかもしれませんね。とはいえ、やはりこの商品は甘さと新食感を伝えることが、他社との差別化になるので、どうにかその訴求ポイントを入れ込んだ形で、うまくやっていただけませんか? やり方はお任せします」
シュンペー「は、はい!…わかりました!」
どどどどどどどどどうしよう。
ここでの受け答えが大事なのかもしれないけど、承諾して持って帰ってきてしまった。
こんなとき、どうすればよかったのだろう?
いままで50回近くプレゼンしたけど、全部採用されなかったので、どう返事すればいいかわからない……。
2ヶ月後。
シュンペー君がCMプランナーとしてクレジットされた、初のCMが地上波に流れた。
でも彼は、飲み会で、そのCMのことを口にすることはなかったという……。
ま、まあ、いいさ。
ぼくが優秀なことは、みんな認めているんだから。
またきっと、チャンスはやってくるさ!
極端な話、採用されなくても、給料はもらえるし。
次に採用されるまで、またストックをためておこーっと。
次に採用されるのは、いつになるかな?
楽しみだなあ……。
● ● ●
映画「ジャッジ!」のような話だ。
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