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プラレールアドバンス 人気の裏にはミリ単位の攻防

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ヒット商品から消費者の「これ、なんで買ったんだろ?」をひもといた本『買う5秒前』の著者、草場滋氏と、タカラトミーのヒット商品「プラレールアドバンス」のマーケティング担当者 檜垣真一郎氏による対談が、都内で開かれたイベント「AdverTimesDAYS」にて行われた。ここではその一部を紹介する。

  • 指南役代表『買う5秒前』著者 草場 滋 氏
  • タカラトミー ベーシック事業部 プラレール企画部マーケティング課 課長 檜垣 真一郎 氏

オプションが好きなワタシ

草場:人がモノを買う理由は6つあるといわれています。必要、お得、好み、流行、見栄、そして義理。しかし僕らがものを買う理由は、この6つに必ず当てはまるものではなく「これ、なんで買ったんだろ?」というのがほとんど。ヒット商品から購入の最後の一押しになったものの正体を探っていくと、商品やサービスのアイデアを考えるときのヒントになります。「プラレールアドバンス」は、2011年に発売のヒット商品ですが、その特徴は50年以上も子どもたちに親しまれている「プラレール」の既存レールをそのまま使えることですよね。単線仕様だったレールを複線使用にして片側走行できる。一からレールをそろえなくていいから、プラレールの「オプション」商品と認識した家庭では、財布のひもが緩みやすかった。

檜垣:そうなんです。プラレールはレールがあることが強み。レールに普通に車両を乗せる以外の使い方はないだろうか、とずっと考えています。実はプラレールアドバンスの企画が最初に持ち上がったのは1999年と古い。しかし当時は事業性が見えず実現しませんでした。2007年に鉄道博物館がオープンし、そこに、カップルがデートとして来るようになったり、鉄道アイドルが出てきたりして、市場が変化したことから、もう一度この企画が動き始めました。

『買う5秒前』 宣伝会議刊
僕らは明確な理由があって毎度商品を買っているワケじゃない。「これ、なんで買ったんだろ?」と自分でもよく分からない。そう、日々の買い物の決定権は「買う5秒前」が握っている。そしてその正体はよく分かっていない——。本書はそんな未知なる購買動機を解き明かそうというもの。特に商品やサービスのアイデアを考えているあなた、「買う5秒前」の正体が分かれば、よりアプローチしやすくなるはず。

草場:2007年は「鉄子」が流行語大賞の候補に入った年ですね。それまでは鉄道オタクというと、男子の非常にマニアックな趣味だったものが、女性も「実は私も鉄道が好き」とカミングアウトした年が、2007 年なのです。

檜垣:鉄道ブームに乗り、プラレールアドバンスの「訪問モニター」を行いました。そこでニーズがあるかどうか見極めようとしたのです。これまで見たことがない商品というのは、最初はモニターの反応も鈍いものですが、次第にお子さんたちが熱中するポイントが出てきたのです。それがカーブで、二つの車両がギリギリにすれ違う部分。これをマーケティングメッセージにすれば、脈があるなと判断しました。ところが、生産の段階で車両がすれ違う時にぶつかってしまうことが分かりました。ギリギリまで攻めてくださいと言って開発したら、攻めすぎちゃったんです。生産の時に設計を変えるのは、発売日や生産スケジュールにも直結しますので、ギャンブルでもあるのですが、1ミリ単位の調整を行っていきました。

草場:単線を複線化することで、車両が小型化し、実際の鉄道のバランスに近づきましたね。複線化するときに、全く新しいレールを作ろうという発想はなかったんですか。

檜垣:列車を止める機能を持つ専用レールの開発はしましたが、プラレールのロゴを使って販売する商品なので、「プラレールのレールを使えます」と宣言することが僕らの責任だと考えていました。押入れに眠るプラレールのレールを出してきて遊んでみようか、という方もいるかもしれない。50年分のプラレールのレールでも遊べるか、可能な限り検証しました。

最近では小学校に入ると、プラレールで遊ぶのを卒業してしまう傾向があります。そこから鉄道模型に行ってしまうんです。鉄道模型は一定の金額の投資が必要で、購入の壁もあります。プラレールアドバンスは、同じレールが使えるということで、お母さんも「これならいいんじゃない」と首を縦に振っていただけたようです。

草場:マーケター用語だと「一貫性の原理」と言いますよね。人はものを買うと決めたら「ついで買い」に弱い。ゼロからモノを買わせるのはすごく大変だけれども、1を10にするのは、そんなに難しくない。「レールはあるから、オプションとしてアドバンスも買っちゃっていいかしら」となりやすい。

檜垣:同じレールで色んなものが遊べれば、ライフタイムバリューが伸びます。車両のラインアップを増やすことで、いろんな遊び方ができる。そこがお客さまに受け入れられたのだなと思います。

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