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スタバはないけど、スナバはある。地域PRに見る、逆転のマーケィング戦略

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逆転発想のルーツは夕張市

「自虐」を使った逆転の発想のルーツは、2007 年に財政破綻した北海道夕張市の再生プロジェクトにある。当時、私は連日都内で夕張市が破綻したニュースを目にしていた。広告制作に携わる人間として何か役に立てないかと思い、自主的に企画を考え夕張市に向かった。負債を背負った夫妻のキャラクター「夕張夫妻」をつくり、自虐的なアプローチで夕張市を話題にして再生の足がかりとする。

当初はこのキャラクターを夕張市のさまざまな負の遺産(つぶれかけた施設やホテル)に活用し「同情するなら金をくれ」的な強烈なメッセージで話題にしていくイメージだった。しかし、実際に現地で市の職員や住民と言葉を交わし考えが大きく変わったのを覚えている。自虐だけでは何も救われない。そもそもこの「夕張夫妻」というネーミングは「フサイ」という言葉に「負の負債」と「愛の夫妻」という相反する側面が隠れていることから名付けたもの。自虐をキッカケに、その裏側にある希望や未来を語っていく。「金はないけど愛はある」という座右の銘や「夫婦円満」というキャラクターの設定に強く光を当てていくようにシフトした。例えば「夕張駅」がJR 石勝線の終着駅だということを逆手にとって「ここが噂の終着駅、でも愛の始発駅」というように。この感覚が3 年弱にわたるキャンペーンの原動力となった。企画当初からずっと気になっていたこと。それは急激な人口減少により、夕張市が日本で3番目に人口の少ない市になってしまったという事実。この事実を何とか前向きに使えないものか。人口の多くが高齢者夫婦。ということは離婚する人は少ないはずだ。

さまざまなデータをひっくり返し、当時「日本一離婚件数の少ない市」である新事実を見つけた。名実共に「日本一夫婦円満の市」と言えることを発見したのだ。市長は記者会見を開き、夫婦円満の街を宣言。宣言ポスターを街中に貼り、その象徴として夕張市役所内に夫婦円満課を設立「夫婦円満証」という夫婦の愛の証明書を発行した。第一号の円満証は入籍したての夕張の若いカップルに市長から贈呈し、その様子が明るいニュースとなって発信されていった。「自虐」という尖ったアプローチから、真の目的である人間の心を動かす活動へ。一つの指針が示された出来事だった。そして今まで白い目で見ていた住民から声をかけてもらえるようになったのも思い出深い出来事だ。「夫婦円満の街」として再始動した夕張市が新たな収益を生むために、さまざまな商品をつくっていった。T シャツやマグカップなどのオリジナルキャラクターグッズはもちろん、地元にあったさまざまな商品をリニューアルし命を吹き込みデビューさせる。

例えば古く暗いイメージを引きずっていた「炭坑ビール」を一新し「夫婦円満ビール」にしたり、普通のおまんじゅうを「夫婦えんまんじゅう」として旅行者が面白がって購入したくなるものにしたり。事実、夕張を訪れた修学旅行生たちが「うすれゆく夫婦の愛に」というコンセプトに両親へのお土産として手にしていった。また夕張で長年名物だった「カレーそば」のお店が潰れてしまった時には、その名物復活のために夕張夫妻が一役買って出た。このおそば、量が多くてアツアツ。ふうふうしながら食べていた体験から「ふうーふうー(夫婦)カレーそば」と名づけ復活を果たした。すべては「夫婦円満」というコンセプトをもとに展開し、商品の売り上げの一部が夕張市再生に動く地元のNPO 団体に入るようなスキームも確立した。このキャンペーンは私自身がボランティアということもあり、あくまでも住民が自活し、観光客やビジネスを呼ぶキッカケをつくるまでを目標にしていた。

最終的にこれらの活動で微力ながら夕張への観光客増加や赤字返済に貢献できたこと、カンヌ国際広告賞で日本初となるプロモ部門グランプリを獲得できたこと、そのニュースを夕張市が「世界一のプロモーションの街」として二次活用したことなど、事実を基にした逆転の発想で人を前向きに動かし、地域を活性化していく素晴らしさ・歓びを身をもって体験した出来事であった。地域創生が注目を集めている中、逆転の発想で日本中が元気になっていく、そんな未来は近いかもしれない。

自虐の裏にある希望や未来を語ることで人を前向きに動かした事例。

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