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「広告商品の改善はデジタルメディアの死活問題」急成長メディアQuartz発行人が語る<後篇>

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読者に支持される広告は「デザイン」「UX」の発想でつくれる

—「Obsessions(オブセッション)」と呼ばれる編集方針(予め設定された10~12の特定テーマに沿って、記事を作成・公開する)やサイトデザインなど、立ち上げ当初からユニークな取り組みが注目されてきたクオーツだが、最大の強みは何であると考えているか。また、ライバルは「誰」だと考えているか。

クオーツの強みは大きく3つあると考えている。その3つとはコンテンツの質、広告商品の質、そしてUX発想のデザインだ。

デザインとは、狭義のデザイン、つまり目に見える部分のことだけを言うのではなく、広義のデザイン、例えば「クオーツ・カーブ」(クオーツの編集哲学。読者に読まれる記事の長さは500語以下か800語以上であると考え、この2種類の記事に特化している)もデザインの一つだ。デザイナーやディベロッパーら15人からなるUXデザインの専門チームもあるが、デザイン発想はデザイナーだけが持っていればいいというものではなく、編集者もライターも持つべきものだと考えている。競合メディアの多くは、たとえメディアの見た目にはこだわっていたとしても、ユーザー体験にまで気を配ることができていないのが現状だと思う。

ライバルは、ビジネスメディア以外で言えば、Facebookではないだろうか。Facebookは、ユーザーの可処分時間を奪い合うライバルであることは事実だが、同時に我々にとってはオーディエンスを獲得するために有用なツールでもある。またFacebook側も、多くのパブリッシャーに対し、動画を制作してFacebook上で配信するよう働きかけている。私たちが動画で成功すればするほど、人々はより多くの時間をFacebook上で過ごすようになるので、「Frenemy(フレネミー:Friend<友人>+Enemy<敵>)」の関係と言える。

—デジタルメディア業界全体を見渡して、課題だと感じることはあるか。

デジタルメディアは、広告を改善する必要があると思う。いま、老舗出版社の多くが上手く利益を得られずにいる理由は、UXの視点が欠如しているからだ。

画面上、隙間を縫うようにありとあらゆるスペースに劣悪な広告を埋め込んで、点滅したり拡大したりして読者の閲覧行動を阻害する。そうした広告に読者は嫌悪感を抱いていて、当然クリックすることはない。そして広告主はそのことを知っているから、(従来の紙メディアと比較して圧倒的に)少ない広告費しか支払わない……そんな悪循環が生まれているのではないだろうか。

では、どうすればいいか。価値のある広告、つまり読者にとって迷惑ではない、面白くて、思わずシェアしたくなるような質の高い広告をつくるしかない。読者は、例外なく、読みやすいコンテンツと美しいデザイン(体験)を求めている。記事が読めさえすれば良いという考え方は捨てるべきで、体験こそがメディアビジネスの生命線になるものだ。質の高い広告コンテンツを目指すからこそ、クオーツの広告出稿費は、他メディアと比べやや高額の設定でも支持されているのだと思う。

高品質な広告コンテンツをつくり、読者に受け入れられ、それによって広告主から選ばれる広告メディアであり続けることができれば、膨大な量の広告出稿を獲得しなくとも、広告ビジネスは成り立つと考えている。

—今年、iOS向けのアプリをローンチしたが、「Notification(お知らせ機能)」のほかにどのようなことをアプリに期待しているか。

クオーツのiOSアプリは、メッセンジャーアプリのようなインターフェース。友だちがニュースを教えてくれているかのように、次々とニュースが流れてくる。

人々は、メッセンジャーアプリにより多くの時間を割くようになった。新しいアプリは、この行動変化を踏まえてデザインやUXを設計している。

アプリを起動すると、メッセンジャーアプリのようなインターフェースが現れる。まるで賢い友だちがニュースを教えてくれているかのように、たくさんの絵文字とともに、次々とニュースが流れてくるのだ。人々は、ただ座って記事を読んでいたいわけではないはず。特にビジネスパーソンは常に周囲にアンテナを張っていて、さまざまな人や話題にインスパイアされる。新しくて面白いこととつながりたいと考えているはずで、ビジネスメディアのアプリだからといって、退屈なものをつくる必要はないと考えている。

ユーザーの立場で考えると、もうこれ以上、モバイルにプッシュ通知は必要ないと思わないだろうか?新しい記事の更新をただお知らせするのではなく、もっとスマートになろうと考えた。ニュースのあらすじを、まるで友だちからのメッセージのように発信していく。投稿の合間合間にはユーザーへの質問が投げかけられ、ユーザーは2択で回答を選ぶことができる。よりニュースに関心を持てるように、よりニュースと関わり合えるようにとの考えで設計したこの新しいアプリは、米国で高い注目を集めた。

アプリ上にネイティブアドを出稿することもでき、クライアントはメッセージの最後に質問を投稿し、ユーザーにその質問に答えてもらうこともできる(答えるか否かはユーザーが選択できる)。ただのニュースアプリではなく、コミュニケーションツールとして活用できるのだ。現在はiOS版のみの提供だが、年内にはAndroid版の発表も予定している。

GEの協賛によって生まれた、さまざまなチャートを閲覧・ダウンロードすることができるプラットフォーム「Atlas」。チャートは、クオーツが制作したものとGEが制作したもの(スポンサードコンテンツ)があるが、GE制作のものが一定数以上、「Popular(人気)」の一覧に表示されるようになっている。

—2016年の目標は。

引き続き、グローバルにおける成長を第一の目標に据えていて、香港支社を開設したばかりだ。年内に売上規模を2倍にしたいと思っている。

また、広告以外の収益源の確保にも力を入れたい。例えばイベントや、広告主向けのコンテンツ制作などが挙げられる。このコンテンツは、必ずしもクオーツに掲載することを目的とせず、クライアントのオウンドメディアや、ソーシャルメディアなど、クライアントのニーズに合った場所に配信していこうと考えている。

2カ月前にローンチしたデータビジュアライゼーションプラットフォーム「Atlas」も、新しいビジネスの一つ。Atlasでは、マーケターをはじめ、ビジネスパーソンの日々の仕事に役立つさまざまなチャートを閲覧したり、ダウンロードして自身のプレゼンテーション資料に挿入したり、SNSでシェアすることができるものだ。GEのスポンサードにより実現したもので、これまでに公開したチャートは4000点にのぼる。 “チャート界のInstagram”になり得るサービスだと自負している。

—クオーツ立ち上げから4年が経ったが、当初は予測できなかった出来事はあるか。

まず、予想以上の成長スピードを実現したことだ。特にグローバルへの広がりには、私たち自身もとにかく驚いている。アプリやAtlasのローンチを含め、マーケティング投資は一切していないにも関わらず、これほど短期間に1500万人もの読者を獲得することができた。当初、SOHOの小さな一室からスタートしたクオーツ。25人だったスタッフは、現在200人にまで増えている。

また、こうした急成長の中で、社内コミュニケーションがいかに重要かつ難しいかということも痛感している。自分が知っている・理解していることを、誰もが同じように知っている・理解しているとは限らないという基本を、つい忘れてしまうもの。ここ半年は、その状況を改善すべく努めてきた。メンバー全員に、いまクオーツがどんな方向に向かっているのか、我々のミッションは何なのかを把握・理解してもらうよう、社員が一堂に会するミーティングを頻繁に行っている。そこでは、会社のファイナンス情報を含め、ありとあらゆることを話すようにしている。

最近、ニューヨークにある新オフィスに移転したばかりなのだが、チャットツール「Slack」やビデオ会議システムなど、より多くのコミュニケーションツールを導入した。各チームのリーダーたちとより気軽にコミュニケーションがとれるようになったと感じている。ミーティングだけでなく、食事にも積極的に行くようにしている。コミュニケーションの手段をとにかく増やしているが、ここぞというときは、フェイストゥフェイスでの対話が最も重要であると考えている。