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いきものがかり 水野良樹さん、『コピー年鑑2016』を読む

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(審査委員長賞のライザップのページで手を止め…)

水野:これは「結果にコミットする。」というコピーがすごく…実際に、僕もコミットしちゃったんですけど(笑)。ライザップに行ってなくても、ダイエットしたことを「コミットしたよ」とみんなが言ってる。コピーがその行為自体の名前になるのが強烈でした。ちょっとやせると、「コミットした系ですか?」とか言われるし(笑)。普段の会話に出てくるようになることで、コピーがある行為をジャックしたような感じですよね。

(コピー年鑑を見終える、水野さん)

—ひと通り見ていただいて、どんな感想を持ちましたか?

水野:すごい平坦な言い方で恐縮ですが、やっぱり、広告は時代を表しますよね。その時代の人たちが思っている「こういうものがほしい」とか、「こういう考え方をしたい」というものが現れていく。そこを意識しながら、コピーライターのみなさんも、書いているし、つくっていると思うし。結果的に芸術家と言われている人が自己表現をしたものが時代を表すのではなくて、商品を広く告げようという行為の一連が実は時代を表していて、10年後にこのコピー年鑑を見たときに「この時代、こんな感じだったんだね」という、言葉にならない空気感を伝えられるものになるのではないかと思いました。

—おっしゃる通り、僕らも1つの社会史料としてコピー年鑑をつくっているところがあります。ちなみに、今日パラパラと見てみて、水野さんはいまがどんな時代だと思いました?

水野:えっ、いまの時代ですか?それは難題ですね。うーん…

—水野さん、普段からそういうことに意識的な方ですよね?

水野:うわー、追い詰め方が、怖い、怖い(笑)。とらえづらいのは、マスに向かっているのか、個に向かっているのか、矛盾をはらんでいるところ。

三太郎のCMは、みんなが共有できるものがすでに少ないので、そこに対する欲求に応えている。そういう、共有できるものがほしいという引力がある一方で、そこに流れている物語は個に向いていて、三太郎もそうですが、たとえば、山田孝之さんのジョージアの「世界は誰かの仕事でできている。」というCMも、これに感情移入できるのは、みんな何かしらの仕事をしていて、個人というものがあるからだと思うんですね。個人のライフスタイルをよりよきものにしたい、というベクトルのものだと思う。

これは僕の勘違いかもしれないけれど、以前のCMだと、社会全体がこうなったほうがいいよねという社会全体の願望を拾うようなコピーが全面に出る時代もあったけど、いまはそうとはわりきれなくて。個人と社会の間で、どこに立ち位置をとったらいいのかわからない、どちらにも引っ張られている人たちが多いのかなと思いました。

—興味があるのは基本的に自分のことだけど、何も共有できないのはさびしいという…。

水野:だから、歌を書くときにも困るんですよ。個に向けて書けばいいのか、みんなに向けて書けばいいのか、悩みます。

—TCC賞というのは、TCCというコピーライターとCMプランナーの集団があって、その会員である審査委員が審査して賞を決めるというものなんですが、こういう賞というものについては、どう思いますか?

水野:つくり手同士で敬意を表しているのは単純にうらやましいなと思います。音楽の世界だと、ランキングであったり、売り上げが評価の基準になるし、賞に関しては、つくり手ではない評価専門の人たちが決めている。もちろん賞をもらえるのは嬉しいけど、音楽界は自分たち同士で敬意を表しあう文化があまりないので。互いに敬意を示し合うのは本当に素敵なことですよね。

—それと、TCC賞にはもう1つ、つくり手から見た、いいコピー、いい広告というものを世の中に提示する、という目的もあるんですが。

水野:僕が広告をつくる人にシンパシーを感じるのは、匿名が前提、というところで、ある種、クライアントや商品の媒介になるというか、巫女のような存在になるところがありますよね。

僕らのグループは、つくっている人間と歌っている人間が別で、それがいまの音楽界では珍しいんです。たいていはシンガーソングライターなので、つくる人と表現する人が一緒で、表現そのものが、その人の生きてきた人生を表わしている。そしてそのことに重きを置く時代が長く続いている。

それに対して、僕らのグループは、分業することによって、ある種匿名性を帯びていると思っていて、自分たちの物語を伝えたいというより、聴いてくれる人の物語につながっていくということを目指しているというか。その構造は広告と近いなと思っているんです。だから、広告の人たちが、こういう賞をつくって、自分たち自身で自分たちのやっていることの意義を言おうとする気持ちがよくわかる。

—水野さんが広告をつくったら、いい広告ができそうですよね。

水野:ぜひよろしくお願いします(笑)。

—今日はどうもありがとうございました。


コピー年鑑2016
全国書店で発売中
定価:本体 20,000円+税
東京コピーライターズクラブ編
A4 変形判・上製/ケース入り 532 ページ
ISBN 978-4-88335-379-8 宣伝会議発行