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コラム

電通デザイントーク中継シリーズ

松尾先生、人工知能と広告の未来はどっちですか?【後編】

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2017年はデジタル広告による「ブランディング元年」

並河:2017年はデジタル広告による「ブランディング元年」になるのではないかと思っています。スマートフォン上で動画などのリッチな表現が実現できるようになり、デジタル広告によるブランディングに注目が集まってきています。

僕は、デジタル広告の「フェーズ2」が始まったと考えています。「フェーズ1」はデータ産業革命で、GoogleやFacebookがデジタルプラットフォームをつくりました。「フェーズ2」では、そのデータ産業革命の上にクリエーティブが乗り、人の心を動かしていくフェーズです。ここは難しく、そしてとても面白い領域です。

16年9月に企画に参加し、開催したイベント「TCCことばみらい会議」で、コピーライターの仲畑貴志さんとIBM ワトソンの研究者との対談を企画しました。ワトソンに文章を読ませると、文脈から悲しい言葉やうれしい言葉を見つけることができます。その説明を仲畑さんが聞くと、「小学生の男の子は、好きな女の子に『大嫌い』ということもあるぜ」と言いだして、議論は平行線でしたが、そこがとても面白かった(笑)。

クリエーティブとテクノロジーには、かみ合わない部分もありますが、人間は多くの機能の集合体です。さまざまな機能のうちのいくつかは、人工知能の方が人間の成果を上回ることがあるのかもしれない。

松尾先生の著書の中に「人工知能について考えることは、人間を見つめること。人間自体に自覚的になること」ということが書かれています。人間についての理解を深めることで、人工知能との協業が進んでいくのだろう、と考えています。

松尾:ありがとうございます。並河さんのお話は、すごく重要です。人工知能で最適化できる領域は、どんどん実現させていけばいいのです。もちろん技術的な課題もありますが、少しずつ乗り越えながら進めていけばいい。

コピーライティングについていえば、複数のコピーをクラウドソーシングでつくってもらい、人工知能に良いか悪いかを評価させて、いいものだけを残して、進化させていくようなことは簡単にできます。

ただし昔から、人工知能の世界では「サルにShakespeareという文字が書けるのか」といわれています。サルにAからZまでのサイコロを振らせていれば、いつか「Shakespeare」という文字列が出るでしょう。ただし、そのためには大変な時間がかかる。つまり理論的にできることと、現実的に使えることは別の話だということです。

先ほど並河さんのお話の中に「ブランド」というテーマが出てきました。「ブランディング」には長期間の最適化が必要なので、短期的な最適化が得意な人工知能には難しいかもしれない。人間はいろんな知恵を使って、短期でブランドを構築することができますよね。

並河:なるほど。長期的なフィードバックが必要だから、人工知能によるブランディングは難しい、といった視点は持っていませんでした。逆に短期的なフィードバックがあれば、ブランディングであっても、より人工知能が関与していける可能性があるということですね。

松尾:例えば僕は、一度もエベレストに登った経験はありません。しかし実際にそこに行けば寒くて死にそうになるだろうと予想できます。これは機械学習的にいうと、一回も経験したことがないことでも、ほぼ経験したことと同じような効果をもたらしているわけです。それは僕が言葉によって何百年、何千年にもわたって人が経験した知識を学習しているからです。

ブランディングやコピーライティングといった広告領域も同様で、人間は自社の戦略に別のブランドの成功事例を抽象化したり、その知識を活用したりしています。

また人間は広告とは全然関係のない、例えば動物園のサルを見て、サルとはまったく関連のない広告アイデアをひらめいたりします。異なる領域の知識を転移させながら、疑似的に学習データを増やしているのです。これは現在のディープラーニングの技術ではできません。

並河:長期的なフィードバックを得て思考していくことと、関係のない知識同士を結びつけることは、今のところ人間に優位性があるということですね。ただ一方、ブランドは、最終的に人の心にある抽象化された概念ですよね。ディープラーニングも、機械が学ぶ過程において、抽象化した概念を持っている。ある意味、似ているところもあると思うのですが。

松尾:ユーザーの心の中にどうブランドの概念がつくられていくのかを、何らかの形で検証できるようになれば、人工知能技術でブランドを効率的につくることができるようになるかもしれません。

並河:そうなると、広告はどうなっていくのでしょうか。

松尾:おそらくテクノロジーが進化していく過程で、あまりにも短期のKPIを追求すると、長期のKPIが悪化するということが起きていきます。そうなると、テクノロジーは長期のKPIを損なわないようにしながら、短期のKPIも良くするといった方向に向かう気がします。そこでは「適度な快適さや面白さ」といったことが、徐々に実現してくるのではないでしょうか。

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