広告の未来は人工知能でどうなる?
並河:人工知能が普及していく中で、広告やメディアはどのような役割を担うのでしょうか。
松尾:メディアには広告的な価値とは別の付加価値があると思っています。
最近、新聞社の方と話をしていて、僕は新聞の存在意義は「共通の知識をつくる」ことにもあると考えています。例えば、あるニュースを「今日の日経新聞の1面に載っていたよね」と話題にする場合、相手もそれを知っていればコミュニケーションのコストが減っていることになります。ここで、相手が知っていることを自分も知っているという状態をつくることが重要です。
ところが今は、デジタル化によってOne-to-Oneでパーソナライズした情報が送られている。それは最適化という観点では優れているのですが、共通知識をつくり出すという機能は損なわれてしまっている。
本来は、パーソナライズされた情報を送りつつ、そのコミュニティーの中では重要な知識を持つような情報の生態系のつくり方があるはずなのです。しかし僕が見ている範囲では、どのメディアもできていません。
並河:マス広告やメディアによって共通の知識がつくられ、コミュニケーションコストが減るというのは、その通りだと思います。テレビCMを流す効果って、「あのCMの商品です」という、ひと言である程度分かってもらえるようになる、つまり、コミュニケーションコストの削減にもなっている。コミュニティーに共通知識が生まれるのはいいことなのですね。
松尾:いいことです。その知識を前提にコミュニケーションができますし、冗談も言い合えます。従来のマスマーケティングでもないし、パーソナライズされた広告配信でもない、その中間が大事だと思います。
並河:マス広告は発信元となる企業が、新聞も新聞社が編集しています。もう少しオープンな方法で、もっと多くの人が関わりながら、共通の知識が生まれる可能性はあるのでしょうか。
松尾:あると思います。共通知識をつくるべきコミュニティーの数は相当、たくさんあるはずなので、全部を人力で行うわけにはいきません。そこは、人工知能をうまく使うことで実現できるのかもしれません。
並河:セッションの終わりの時間が来てしまいました。今日の話が未来を予測するための一助になればいいなと思います。松尾先生、本当にありがとうございました。
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松尾豊
1997年 東京大学工学部電子情報工学科卒業。2002年 同大学院博士課程修了。博士(工学)。同年から、産業技術総合研究所研究員。05年10月からスタンフォード大学客員研究員を経て、07年から、東京大学大学院工学系研究科総合研究機構/知の構造化センター/技術経営戦略学専攻准教授。14年から、東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻グルーバル消費インテリジェンス寄付講座 共同代表・特任准教授。専門分野は、人工知能、ウェブマイニング、ビッグデータ分析。人工知能学会からは論文賞(02年)、創立20周年記念事業賞(06年)、現場イノベーション賞(11年)、功労賞(13年)の各賞を受賞。人工知能学会 学生編集委員、編集委員を経て、10年から副編集委員長、12年から編集委員長・理事。14年より倫理委員長。日本のトップクラスの人工知能研究者の一人。
並河進
電通ビジネス統括局
コピーライター、クリエーティブディレクター
2016年9月、データとクリエーティビティーの掛け合わせによるプランニングチーム「アドバンスト・クリエーティブ・センター」を立ち上げる。2016年度グッドデザイン賞審査委員。TEDxTokyo Teachers2015スピーカー。著書に、『Social Design 社会をちょっとよくするプロジェクトのつくりかた』(木楽舎)、『Communication Shift「モノを売る」から「社会をよくする」コミュニケーションへ』(羽鳥書店)他多数。東京工芸大学非常勤講師。
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