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「星を見せる会社」をビジョンに掲げる企業が取り組む、顧客との関係づくり

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『100万社のマーケティング』は、「デジタル時代の企業と消費者、そして社会の新しい関係づくりを考える」をコンセプトに、理論とケースの2つの柱で企業の規模に関わらず、取り入れられるマーケティング実践の方法論を紹介する専門誌です。記事の一部は「アドタイ」でも紹介します。第10号(2017年2月27日発売)が好評発売中です!詳しくは、本誌をご覧ください。


成熟化したと言われる環境下でも、新たな顧客を創造し、市場を創る経営トップがいます。そして、そこには瞬間的に売れるだけでなく、売れ続けるための全社を挙げた取り組み、さらには仕組み化があります。商品戦略、価格戦略、流通・販路戦略、プロモーション戦略に着目し、売れるためのアイデア、仕組みを解説・紹介していきます。

新妻和重 Kazushige Niizuma
代表取締役社長

埼玉県出身。中央大学卒業後、公認会計士事務所に就職。公認会計士二次試験合格。企業会計、経営相談、相続対策などの業務に従事する。2005年5月に38歳でビクセン社外取締役就任。2006年6月に公認会計士事務所を退職し、ビクセン取締役となる。2007年5 月に代表取締役社長(8代目)に就任。現在、代表取締役就任8年目。

 

「以前から、コト起点でビジネスを展開しなければいけないと考えてきました」–天体望遠鏡や双眼鏡、顕微鏡などの光学機器を中心に企画・製造・販売するビクセンの新妻和重社長は言う。

ユーザーに天体望遠鏡の使い方を覚えてほしい、天体望遠鏡を通して見える世界の感動を味わってほしい。そうは思っても、天体望遠鏡は取り扱いが難しい。誰もが知っているものだが、実際に触ったことのない人が多い。使っている様子がイメージしにくく、購入のハードルが高い。多くの人が自分には関係ないと思っている商品なのだ。

しかし一方で、星を嫌いな人は少ない。このギャップを埋めることができれば、天体望遠鏡が多くの人にとって、もっと身近な存在になるはず。その方法として「コト消費」という発想に行き着いた。

その考え方を象徴する存在が、同社が発行し続けている小冊子だ。ビクセンでは、フリーペーパーというものがなかった時代から、家電量販店など商品を扱う店頭に、望遠鏡や双眼鏡、顕微鏡、そしてそれを通じて見ることができる宇宙やミクロの世界に関するさまざまな情報を届ける小冊子を設置してきた。

現在、季刊で刊行している情報誌「So-TEN-Ken」は、双眼鏡・天体望遠鏡・顕微鏡の「そう・てん・けん」から名付けられたもので、2016年冬に通巻61号を数えた。「20年ほど前は、広報部門や宣伝部門の代わりに、カタログやフリーペーパーなどの紙媒体を専門に企画・制作する『カタログ課』という部署がありました。いきなり商品に興味・関心を持ってもらおうとしても難しい。まずは、星座や月の満ち欠け、コケの生態、スポーツ観戦 ……レンズを通すことで楽しめる世界を知ってもらいたい。そういう考え方は、先代の頃からあったと思います」と新妻社長。

「星を見せる会社」をビジョンに掲げる

「コト」の価値にこだわる姿勢は、同社が掲げるビジョン「『星を見せる会社』になること」にも表れている。「星空を楽しむために、何が必要か」「どうすれば、多くの人が空を見上げたくなるか」を行動指針とし、新たな事業や活動、商品を考えるプロセスでは、折に触れて立ち返る。

初めて明文化されたのは、約6年前につくった会社案内。コトをつくることの大切さを社員と共有し、コトづくりを会社の軸としたいと考えて策定したものだった。

ユニークなのはビジョンだけではない。同社のミッションは「『自然科学応援企 業』であること」。星空や野鳥、木々や草花、また微生物などの自然を観察することを通じて自然科学を学ぶ。その第一歩を踏み出す一助となることを目指している。

こうしたビジョンやミッションを、社員が日頃から意識するための工夫もなされている。例えば、「宙(そら)ガール」や「星のソムリエ®(星空案内人®)」だ。女性社員の名刺に印字された「宙ガール」は、ビクセンが商標登録した言葉で、6年ほど前から使用している。明確な定義はないが、宇宙や星空を楽しむ女性が増えるようにとの思いが込められている。一方、「星のソムリエ®」は、星や宇宙について説明することができるガイドの資格で、公式な試験に合格することで名乗ることができるものだ。

新たな商品や事業のアイデアも、ビジョンやミッションに照らしながら形にしていく。「星を見せる会社」として、また自然科学を愛する一人の人間として、「あったらいいな」と思うもののアイデアを、時間をかけて煮詰めていく。

新妻社長が、趣味である山歩きの仲間から聞いた話、山小屋での交流を通じて知ったこと……頭の中に「点」として蓄積されていった知識や情報が、時間をかけて線となり、やがて像を結んでいく。

例えば2016年7月に発売した「コケ観察セット」も、そんなふうにアイデアを熟成し、5年越しで実現した商品だ。さまざまな知識を蓄積し、世の中の動きや人々の価値観の変化などと掛け合わせて考えながら、商品化の構想と、具体的な商品設計を考えていった。

天体望遠鏡・双眼鏡・顕微鏡・ルーペといった光学機器と、それ以外のアイテム (コンパス、ステーショナリー、アクセサリーなど)。大きく2つに分けられる同社の事業ポートフォリオが、新しい商品アイデアを生み出すのに効果的に働くことも多い。「光学機器の開発には多額の投資が必要ですし、時間もかかります。一方で、ステーショナリーやアクセサリーであれば、色々なことに挑戦しやすい。星好きの人を増やすため、また星好きの人にアプローチするために、光学機器以外のさまざまな切り口を次々と提示するようにしています」。 商品企画会議は、必ず2つの事業の担当者が同席して行うという。

2事業の相乗効果で生まれた商品の一例に「レンズヒーター」がある。「寒冷地でレンズが結露するのを防ぐためのヒーターをつくりたい」という光学機器製品の担当者の要望を受け、光学機器以外のソフトの部分を担当している社員が普段から取引をしていた縫製業者に取り次ぐことで、スムーズに商品化が実現したという。「光学機器だけを扱っていたら、このような企画はなかなか実現しにくかったと思います。他の光学機器メーカーがレンズヒーターに参入することなく、いまだ当社の独占状態であることが、それを示しています」(新妻氏)。

(続きは本誌をご覧ください)


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