コラム

ビデオコミュニケーションの21世紀〜テレビとネットは交錯せよ!〜

広告業界は「特別な場所」だという幻想を、そろそろ捨てる時だと思う

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広告業界の働き方は本当に変わるのか?

今、業界のほとんどの場所で、働き方の見直しが具体的に行われているそうです。今まで当たり前のように長時間働いていました。その現場の一つひとつで、残業を本当に制限し、それで足りないなら人を増やしている。

いいものをつくるのに、「時間を制限されるなんて!」そんなぼやきが今、あちこちでささやかれていることでしょう。私は長らく広告制作の現場で仕事をしていましたし、映像制作会社の管理部門にいたこともあります。どの現場も、みんな本当によく働いていました。朝会社に来たらソファで寝てるやつが当たり前のようにいました。長時間労働をものともせず、むしろ寝る間も惜しんでいいものをつくるのが制作の現場であり、業界というものでした。

CM撮影の現場で、2秒の商品カットにディレクターとカメラマンがこだわって、こだわって、2秒とるのに40テイク撮って9時に終わるはずが3時になって。そんなことが、当たり前でした。だっていいものをつくるのがプロじゃないですか!

私もそう思っていました。だから一緒に3時まで付き合ったものです。正直、最初に撮ったカットと最後のカットの区別なんてつきませんでしたが。

でも、ある時に知ったのですが、ハリウッドでは徹夜なんかしないのだそうです。あらかじめ決めた時間内で終わらないといけない。それよりかかる場合は、翌日。あるいは超過料金を払わないといけない。取り残しがあってもみんな時間が来るとさっさと終わっちゃって、夜はみんなで楽しく食事を味わう。ロケ弁で徹夜なんてしない。

いいものをつくるのがプロじゃないすか!そうです。でもハリウッドは残業しない働き方で世界に通用する映像をつくっている。日本も負けないくらいレベルは高いと思いますが、ものすごく無理して時間も労力も全部注ぎ込んでそれに見合うフィーは出なくても、頑張って頑張って、やっと到達するクオリティです。映像のクオリティは同じでも、時間と労力をかけ過ぎているとしたら、どっちがプロなんでしょう。時間内に終わらせて必要なクオリティを満たしている方がプロかもしれませんよね。

広告制作にはトラブルがつきものです。理不尽な修正要望は日常茶飯事。OKが出たのに後から「やっぱりここをこうしてくれ」と言ってくる。平気で言ってくる。あんまりなときに、私は何度か「追加料金を請求しようよ、じゃないとできないと言おう。あれほどこれでいいですねと念を押したのだから」と言ったことがあります。一瞬、みんな「境さんの言う通りだ」となる。

ところがそこで誰かが、大体は広告代理店の営業さんとかベテランのプロデューサーとかが「でもさあ境さん、断らないのがプロだとおれは思うんだよね」と絶妙のタイミングで、そういうカッコいいことを言うのです。途端に空気は逆転して「だよな、プロだよな」となる。私まで「ううむ、そうかもしれない」と説得されちゃう。

でもね、そんなの普通じゃないんですよ。普通の取引では契約書に書いてあるもん。合意事項を超えた要望には別途見積もりを、とか書いてある。でも広告制作の世界では契約書なんて交わさないのだもん。ざっくりやってきたから、ざっくり丸めこまれる。普通じゃないよね。

普通じゃないよね、と言ったら今度は「そうだよ、境さん、だっておれたちが働いているのは特別な世界じゃないか」とか、さっきの営業さんだかプロデューサーだかに言われそうです。

次ページ 「広告業界だけの話ではない」へ続く

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