スターバックスのサードプレイスは生活時間の再定義
スターバックス(以下:スタバ)がマーケティングとして画期的だったのは、世界的コーヒーチェーンとしてエスプレッソやラテという飲料を世界中に提供したことよりも、サードプレイスという「場所」を定義したことです。
サードプレイスとは自宅(ファーストプレイス)とオフィス(セカンドプレイス)との中間に位置する「リラックスできる場所」のことです。コーヒーを美味しく飲めるという商品中心の考え方ではなく、自宅から働く場所に移動する大都市生活者にとって、リラックスした個人的な時間を過ごす場所となっています。
スタバにとってサードプレイスという定義は、たとえ短い時間を過ごすにしても、商品を単に消費してもらうことが大事なのではなく、コミュニケーションや過ごす場所として彼らが目指す文化を伝達することが目的だったからです。これは初期の店舗デザインでは「コーヒー文化」として定義され、手に取って触れる豆などが飾られ、独特の店内のグラフィックに使われていました。
実はこのサードプレイスは、都市の文化やターゲット層によって異なります。スタバの創業者のハワード・シュルツがイタリアで発見したエスプレッソ文化は、もともとバーのような大人の男性の社交場でした。しかし、彼が広めたスターバックスは、その文化を商品・サービスとして再定義して、コーヒーを提供する仲間(アソシエイツ)も含めて都会で過ごす人々のライフスタイルに合うように変えたコミュニティ空間でした。そして、それが彼らのサードプレイスだったわけです。
だからそれまで男性中心の喫茶店、あるいは女性中心のスイートショップでもない、学生から大人や家族まで過ごせる場所になったわけです。
日本において旧来の喫茶店は、ジャズ喫茶から漫画喫茶まで、コミュニティや文化によって細分化されていましたが、タバコを吸う場所としての利用も一般的だったために大型チェーン化しにくい個人商店でした。日本における大人が時間を使う主なサードプレイスは、男性なら今でも喫煙可能なカフェ、自動販売機の前、コンビニの前、パチンコ屋、スポーツジム、ゴルフレンジなどがあります。大人の女性にとっては、ネイルサロン、美容室、スイートショップ的なカフェ、高齢者にとっては病院や接骨院などが思い浮かびます。
サードプレイスという概念は、したがって場所そのものよりも、都市生活者が個人のために使う時間やそれを元にしたコミュニティから考えるべきです。
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