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コラム

スポーツ経営に学ぶ 常識を超えるマーケティング発想法

スター・ウォーズに学ぶ 消費者を“マヒさせる”ストーリーづくり

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史上最年少で横浜DeNAベイスターズの社長に就任後、5年間で売上倍増、観客動員数は球団史上最多、24億円の赤字から約10億円の黒字化を達成させた同社前社長の池田 純氏による「スポーツ業界に学ぶマーケティングの発想法」コラム。第2回は具体的な事例から、共感を生む「ストーリー」づくりについて紹介します。
(前回の記事はこちら

スポーツに限らず、消費者の共感を呼ぶためのストーリーづくりは、ありとあらゆるビジネスにおいて不可欠です。

もちろん、共感できるストーリーをつくり出すことは、簡単ではありません。世の中では、「まったく思いつきもしなかった」という商品は、人の思考の先に行きすぎていて、結果オーバースペックだったりして、実は共感されにくいものだったりします。一方で、消費者が「ああ、確かにそういうのがほしかったんだよ」と感じる絶妙なラインを超えたとき、商品は世の中で受け入れられ、ヒットにつながっていきます。

具体的な例として、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドの取り組みがわかりやすいでしょう。

昨今は、「ミニオンズ」「ハリーポッター」といった映画を軸にコンテンツを育てたユニバーサル・スタジオ・ジャパンに押され気味の感のある東京ディズニーリゾートですが、競合をじっくり観察もしているでしょうし、時代環境の進化や顧客心理の進化に足りない点を必ずや拡充してくるでしょう。たとえば映画「スター・ウォーズシリーズ」を手掛けている「ルーカスフィルム」やアメリカ最大のコミックス出版社の「マーベル」を買収してコンテンツを揃え、男性を軸に、親子をターゲットにしていると考えられる戦略投資などもその一つでしょう。

昨年には、「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」の直前までを描いた、スター・ウォーズシリーズのスピンオフ作品である「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」が日本でも公開されました。

「エピソード4」では、冒頭部分でレイア姫がR2-D2にデス・スターの設計図を託すシーンが登場します。はじめて見たときは、「なんでレイア姫が設計図を持っているんだろう」と漠然と思ったような気もしますし、そのときはそんなことは何にも思わなかったようにも思うのですが、「ローグ・ワン」でその過程が描かれたことによって、観た方の中には当時を思い出して、「へえ、そういうことだったんだ。ああ、確かに。そこ知りたかった」と俄かに共感を覚えた方は、私も含めて多かったのではないでしょうか。

消費者が「ああ、確かにそういうのがほしかったんだよ」と感じる絶妙なラインを超えたとき、商品は世の中で受け入れられ、ヒットにつながっていく。
bubbers / 123RF 写真素材

また、「エピソード4」は1978年に日本で公開された映画ですから、当時心躍らせた子どもたちはもう大人になり、子どもがいてもおかしくありません。約40年のときを超えたことで、「子どものころ、初めて観たスター・ウォーズの、印象的だったレイア姫が設計図をR2-D2に託しているシーンの背景にこんなストーリーがあったなんて、お前と一緒にローグ・ワンを観てはじめて知ることができたよ」と、親子の会話を生み出すストーリーでもあります。

もちろん、“ストーリー”にはさまざまな意味合いがあり、スター・ウォーズのように分かりやすく時代や世代を結ぶずばりストーリー(物語)の場合もあれば、消費者の心が揺れ動く商品自体の開発話や秘話やウラ話の場合もあれば、商品や商品の周りにある何かが存在することになった理由のような場合もあります。消費者がそれらの接点や要素に触れ、共感をしたとき、大きな感動が生まれるのです。

そして、人は心が揺さぶられるほど感動すれば、価格に対する感受性もいい意味で麻痺し、高くても、その感動に見合うだけの金額を喜んで支払います。実際、東京ディズニーリゾートはチケットが値上がりしながらも、新しいアトラクションが登場すれば、やはりお客さんが今でも殺到しています。

球団経営でも同じで、観客席に閑古鳥が鳴く状況ならチケット代に関するクレームが来て当然です。そんな段階では少しの値上げでも顧客は過敏に反応するでしょう。球場に行けば100%の楽しさを味わえるボールパークとして非日常感満載の雰囲気に満ち溢れ、毎試合満員でチケットが取りにくい状態となれば、たとえチケットの価格が上がったとしても、行きたいと思う気持ちが勝る以上は、お客さんも多少の料金の過多に囚われることなくチケットを購入してくれます。

チケットを入手できた喜び、ボールパークで感じる非日常感、平均して3時間半ほどの試合時間とその前後で味わえる満足と感動が増せば増すほど、チケット代金の価格によって来場が左右されることは少なくなるものです。

価格面で消費者をいい意味で麻痺させ、毎試合満員にするためには、前回も記述したとおり、球場内の弁当ひとつですらも価格の妥当性を超える弁当自体のクオリティに加え、弁当の周辺にあるあらゆる要素、接点が必要です。例えば販売や提供の仕方、さらには「野球らしさ・そのチームらしさなどのオリジナリティ」をもってファンや顧客に「感動」してもらうのです。それらを講じる努力自体がファンや顧客に共感してもらえる「ストーリー」を生み出すのです。

とはいえ共感を生み出すストーリーをつくるには、一部の部署だけでなく、全体を巻き込み、組織を横断して“司る”必要があります。次回は、私のこれまでの経験をもとにその点についてお話しします。

池田 純 氏

1976年1月23日、神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学卒業後、住友商事、博報堂を経て、2007年にDeNAに入社。執行役員マーケティングコミュニケーション室長を務める。2010年にNTTドコモとDeNAのジョイントベンチャー、エブリスタの初代社長として事業を立ち上げ、初年度から黒字化。2011年に横浜DeNAベイスターズの社長に史上最年少の35歳で就任。5年間で数々の改革を行ない、売上は倍増、観客動員数は球団史上最多、24億円の赤字から約10億円の黒字化に成功。2016年10月16日、契約満了に伴い、横浜DeNAベイスターズ社長を退任。現在はJリーグ特任理事、明治大学学長特任補佐や複数の企業のアドバイザーを務める一方、Number Sports Business College(NSBC)を開講するなど、10以上の肩書を持つ実業家として活躍している。著書に『空気のつくり方』(幻冬舎)、『スポーツビジネスの教科書 常識の超え方 35歳球団社長の経営メソッド』(文藝春秋)ほか。
HP→http://plus-j.jp/