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コラム

至福の時をつくる体験ブランディング

マーケティングの歯車までを動かす体験ブランディング

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ロングセラーの課題は未来の売上をつくること

ロングセラーブランドの多くは「みんなが知ってくれているけど、積極的に選ばれることが少なくなってきた」というジレンマを抱えているのではないでしょうか。

毎年たくさんの新商品がリリースされる中、ロングセラーブランドがトレンド感や新鮮味にかけてしまう(=トークバリューが低い)のは、ある意味当然かもしれません。しかも、いまの成熟した世の中では、競合の品質がいいのは当たり前。さらに低価格を売りにしたPB商品なども台頭してきています。結果的にカテゴリートップのブランドといえども、昔に比べ相対的に存在感がなくなり始め、最悪の場合、コモディティ化してしまうかもしれません。

そんな状況下でロングセラーブランドが存在し続けていくためには、これからも“選ばれ続ける”仕組みをつくらなければいけません。そのためには、ブランドの新たなファンを常に獲得していくことが大切なのですが、今の若者たちの興味を惹き付けることは容易ではありません。また、単年度での成果を求められる昨今の評価体系のもとでは、現在の売上を支えてくれている層へのマーケティングに集中しがちです。

しかし、これが続くとどうなるでしょうか?
おそらく時間の経過とともにコアユーザーが高齢化し、ブランドの新鮮味が失われ売上も踊り場を迎え、停滞してしまいます。そうなる前に、エントリー層をターゲットにしたマーケティングにも、十分なコストをかけてやる必要があり、それが未来の売上(ファン)を生むことにつながるのです。

価値ストックの再編集でブランドをリ・バイタライズする

いま存在している日本の多くのロングセラーブランドには、技術やノウハウの蓄積、支持されてきた歴史など、大きな存在意義と尊い価値のストックがあります。ところが情報環境や市場構造が大きく変化する中で、ブランドの背負う役割の大きさや、固定観念にとらわれ過ぎていることで新しいチャレンジに踏み込めず、いまの時代に生きる消費者にブランドの良さを伝えきれていない。そんなケースが多いように思います。

ブランドが自身の体験価値を拡張し続けることや、鮮度をつくることを怠ってしまうと、目まぐるしく変化する社会との間に感覚のズレが生じてしまいます。これがブランドへの無関心やトークバリューの低下を招く元凶です。このズレを補正するために、ブランドが持っている価値を再編集することで、いまを生きる生活者にも「これがほしい!」「これがいい!」と思ってもらえるものにすることが大事です。

「ブランド価値を再編集して、新しい体験価値を生み出す」--これが体験ブランディングの基本です。ブランドのコア価値を徹底的に磨きあげる内心力と、時代が欲する価値を拡張していく遠心力を組み合わせることで、新たな感動や幸せ、ワクワクを呼び起こす体験をもたらすことができれば、そのブランドは再評価され、新たなエントリー層の獲得ができるはずです(再編集にはいくつかポイントがあります。単なる話題づくりではNGで、ブランドが築いてきた存在意義や価値を毀損することなく慎重に行う必要があるのですが、細かい話になるので、また別の機会に)。

このコア価値を中心にした体験ブランディングがうまく機能した事例が「ピノフォンデュカフェ」と「Lipton Fruits in Tea」だと思います。「ピノフォンデュカフェ」は10代後半、「Lipton Fruits in Tea」は20代前半を中心に強い支持を受け、どちらも連日の長い行列やエンゲージメントの高いSNS投稿が話題になりました。さらに、その若者層の熱狂がテレビの情報番組やネットニュースでたくさん取り上げられることで、更なる熱狂が生まれました。これらの新しい消費の動きが全国の流通を動かすことにつながり、売上アップや新たな市場の創出を実現しました。

このように、体験ブランディングには “すべてを言い尽くした感”のあるブランドと“固定観念のできあがっている”消費者との関係を一気に親密なものにできる可能性があります。そしてひとたび成功すれば、商品やブランドへの支持はユーザーの編集した感動の声となりSNSやPRでオーガニックに拡散し、最終的に売上というマーケティングの歯車までも動かす、計り知れないパワーが秘められているのです。

藤井一成氏(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター))

1968年広島市生まれ。1992年早稲田大学政経学部卒業後、電通国際情報サービスに入社。1999年から博報堂でインタラクティブクリエイティブを軸に統合キャンペーンを数多く手掛ける。その後、グループ内ブティック、タンバリンに参加。2016年より同社代表に就き、「至福の時間をつくる」クリエイティブブティック「ハッピーアワーズ博報堂」に社名を変更。消費者の“いま”の視点に立ち、ブランドが持つ価値を再編集することで新たなエンゲージメントを築き、ブランドと消費者、社会を次のステージへとポジティブに動かす。「正しいことを楽しく実践して、すべてのステークホルダーを幸せにしたい」という信念のもと、戦略、クリエイティブ、体験デザイン、PR、デジタルなど、360°の視野で構想から実践までを行う。