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マザーハウスに聞く、社会と共存しながら一人ひとりが成長できる新しい企業経営とクリエイティブの役割

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想いだけでは継続できない プロダクトに対する執念が支えに

千布:AMDでは広告業界のクリエイターの働き方を変えることも、社会課題の解決につながるのではないか、と考えて金沢にオフィスを構えたり、ママクリエイターの価値を最大化する新会社「mom.ent(モーメント)」を立ち上げたりしています。こうした活動を通じて、働く人のやりがいや心の満足を考えることがとても重要だと感じています。

山口:今、国内だけでマザーハウスでは約150名のスタッフが働いています。皆、マザーハウスの考えに共感して入社をしてくれていますが、私は想いだけで仕事は続かないと思っています。自分自身の経験から言えるのは、大切なのは想いだけでなく、プロダクトやサービスの品質に対する執念があること。お客さまは、使いやすいバッグであるかどうか、隣の店のバッグと比べて、どこがどう優れているのかをご覧になっているわけで、自分たちはシビアなビジネス環境で仕事をしているということを忘れてはいけません。品質がまず先にあって、その後にストーリーがついてくる。この順番が逆になることは、決してないと思います。

千布:山口さんが起業した当時は、「社会起業家」という言葉が社会的に良く取り上げられましたし、その象徴として山口さんが取り上げられることも多かったですよね。そういう山口さんの姿に憧れて入社する人も多いと思いますが。

山口:よく社内に対しては「ウォームハートとクールヘッド」という話をします。想いだけで企業を継続させられませんし、企業を継続できなければものづくりを続けることもできない。想いだけでなく、一人ひとりに「あなたは、なんのプロフェッショナルか?」が問われているのだという話をしています。そこを理解してもらえないと、ピュアで熱い想いを持ったスタッフが真の意味で活躍することができないと考えています。

そこでマザーハウスでは中途採用のスタッフも、まずは全員店舗で働きます。そこで「考えていた仕事と違う」と落胆するスタッフも出てきます。でもマザーハウスの場合、あなたが扱っているバッグが、どうバングラデシュにつながっているのかを全て見せることができます。リアルビジネス×ソーシャルが継続するためには、この背景を見せ続けられることが大事。マザーハウスの場合は、すべてを内製化しているので、それができるんです。

プロフェッショナルであるからこそ社会に対する想いが実現できる

千布:最近、AMDでは北陸地方の学生を対象に当社のサポートのもと、フィリピンを舞台にビジネスの企画から現地調査、実際の起業までを行う「社会起業家リーダーシップラーニングジャーニー」というプロジェクトを始めました。広告クリエイティブ業界が培ってきた課題を解決する発想力を、広く社会に生かすことができないか。そして、若い人たちが社会課題解決型ビジネスを構築する支援ができないか、と思い始めたためです。想いだけでなく、仕事においてはプロであるべきという山口さんのお話に、大変刺激を受けました。

山口:事業として継続していく以上、想いを共にする仲良し集団というだけではやっていけません。プロダクトに対する執念、プロとしての意識があるから、途上国の職人に対しても、質に対してより良くしていくための厳しい指摘や提案ができますし、それが職人の気持ちを奮い立たせ、素材を輸出していた時以上の付加価値ある商品を生み出すことができる。「途上国支援に対する想い」×「プロダクトに対する執念」を兼ね備えた人材として活躍する人が増えてほしいと思っています。

千布:山口さんのお話に多くのヒントをいただきました。これから多様な「想い」×「プロフェッショナル」の掛け合わせをつくっていくことができればと思います。

マザーハウス 代表取締役社長兼 チーフデザイナー
山口絵理子氏

慶應義塾大学卒業後、ワシントンの国際機関でのインターンを経てバングラデシュBRAC大学院開発学部修士課程入学。現地での2年間の滞在中、日本大手商社のダッカ事務所にて研修生を勤めながら夜間の大学院に通う。2年後帰国し、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」をミッションとしてマザーハウスを設立。現在バングラデシュ、ネパール、インドネシア、スリランカの自社工場・提携工房でジュート(麻)やレザーのバッグ、ストール、ジュエリーのデザイン・生産を行う。

 

AMD 代表取締役 CEO
千布 真也氏

2006年設立の東京・代官山および金沢を拠点とするブランディング・エージェンシーAMDと共に、デジタルカンパニーAMD WOWTTO(ワオット)およびママクリエイティブプロダクションmom.ent(モーメント)の代表取締役を務める。「クリエイティブワークの社会的価値を高める」ことをカンパニーミッションに掲げ、ブランディング視点で企業や社会の抱える課題を解決する方法を提案・実現するプロフェッショナル集団を率いる。