データをもとにした事業推進!?
遼平は社長室のドアをノックした。広い社長室でどっしりと構える陽子は、遼平を手招きし、辞令を渡した。
「知っての通り、社内には昔ながらのKKD(経験と勘と度胸)がはびこっています。経済が右肩上がりの状態ではそれで良かったかもしれませんが、少子化・高齢化、女性就業率の向上など変化の激しい経営環境の中では、とても通用しないと考えています」
「はい」
遼平は、現場の感覚ではさほど危機意識を感じていないが、ひとまず同意した。体育会系で育った遼平にとって上意下達は当たり前のことで、違和感を抱いたこともなかった。
「仁科さん、あなたには組織開発の一環としてこれまで当社がやってこなかった改革に取り組んでもらいます。データをもとにした事業を推進してもらいたいと思っています」
いきなりの指令に出鼻をくじかれた遼平は思わず、
「データをもとにした事業推進ですか?」
と口走る。
「そう、データは嘘をつきません。客観的な事実に基づいた意思決定のプロセスを構築していきたいと考えています。いままでのKKDから脱却するための成功事例を作ってもらいたいのです。とは言っても、いきなりデータ至上主義は当社には劇薬となります。全社に展開するにあたって誰もが認める成功事例を作り、事例をもとにして説得力を高めていきたいということです」
「成功事例ですか?」
「知っての通り、我が社にはマーケティング部門はありません。客観的なデータによる新事業開発を企画する部門としてマーケティング課を新設します。納期は6カ月。9月末日の役員会で皆が納得できる新事業企画を提案すること。あなたならできるわ。よろしくね」
遼平は自分にできるかどうか、とても疑問に感じたが、陽子の期待にチャレンジ精神を掻き立てられ、承諾した。
「仁科遼平。あなたをマーケティング課長に任命します」
「はい! 会社の存亡にかかわる重要な使命と認識し、精進したいと思います」
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