火に油を注いだ司会者
司会を務めた日大広報の担当者も、この自明の理が分かっていないのか、火に油を注ぐかのような対応が目立った。質疑応答の最中に割って入って、会見を強制的に終了させようとしたのだ。「一人が5つも質問したら参加者みんなに回らない」と言って。
記者一人ひとりに質問の時間を与えることは不可能なことは誰もが分かっている。記者は出席した記者全員を代表して、5つも、6つも質問せざるを得なくなっているのだ。
記者の一人が司会者に言った。「みんな見ているんだ。あなたのせいで日大のブランドが落ちますよ」。司会者は即答した「下がりません。余計なことを言わないでください」。さらに会見後、記者から「納得は前提ではないということですね」と聞かれると、「前提もクソも……」と呟いた。納得を前提としない記者会見ならやらない方がいい。問題の根源は、冒頭スピーチで主張をきちっと示さないこと。だからいつまでも、似た質問が繰り返されるのだ。
一方、日大アメフット部選手は記者会見で、用意した冒頭スピーチをしっかりと読み上げた。明確に会見の目的と自分の想いを述べていた。質疑応答でも、どんな記者の誘導質問にも、仮定の質問にもキーメッセージが揺らぐことはなかった。
「反則プレーをしたのは私だ。私にその非と責任がある。心から被害者・関係者、国民に謝罪したい。しかし、そこにいたった事実を包み隠さず話す。話すのは事実のみだ。自分の感情は話さない。なぜなら、今の自分の立場として、感情を話すのは正しくないと思うからだ」。
父母や弁護士のアドバイスを受けての判断だったとしても、日大アメフット部選手のように一切ぶれずに落ち着いて記者対応ができる人は、メディアトレーニングを受けているトップ経営者でもほとんどいない。私から見ても、お手本にしたい記者対応だ。当然のことながら、このように対応すれば、彼の話はすべての記者と視聴者に対して説得力を持つ。
このドタバタ会見は、日大の上層部をさらに追い詰めることになった。25日には日大の学長が午後3時30分から緊急記者会見をした。メディアに送った通知は開始の1時間前だった――。
アクセスイースト 代表取締役
山口明雄(やまぐち・あきお)
東京外語大学を卒業後、NHKに入局。日本マクドネル・ダグラスで広報・宣伝マネージャーを務めたのを皮切りに、ヒル・アンド・ノウルトン・ジャパンで日本支社長、オズマピーアールで取締役副社長を務める。現在はアクセスイーストで国内外の企業に広報サービスを提供している。2018年2月、『危機管理&メディア対応 新ハンドブック』(宣伝会議刊)発売。
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