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「マニュアル」を捨て「レシピ」を持とう 「発酵文化人類学」×「予定通り進まないプロジェクトの進め方」第3弾

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一度腐ったプロジェクトは、もう捨てるしかない

前田:小倉さんの著作を読んで興味深かったのが、発酵と腐敗の違いで。これをプロジェクトに置き換えると、どういうことなのかとずっと考えていました。

小倉:前回言ったように、まず気を付けなければいけないのは、腐るのはほとんど仕込みの段階のミスだということ。そしてもう一つ、これもすごく大事なのは、一度腐ったら二度と発酵させられないということ。一度腐ってしまったら、どんなに名残惜しくても捨てるしかない。腐ったあとも、「もしかしたら発酵するんじゃないか」と薄い望みをかけ続けても、被害が大きくなるだけです。
腐敗が起こるとき、プロジェクトをやってるみんなは、大体うすうす気づいているんですよ。そういう感覚は大事にしなければいけない。
ただ、絶対に腐敗が起こらないようにすることはできない、という割り切りも必要です。どんなに外敵を排除しても、予想もできない、いままでの常識を覆す謎の進化を遂げた危ない菌とかはいて、それは絶対に防げない。リスクを0にすることはできない。

前田:なるほど。
今日ここにはいないんですけど、共著者の後藤はプロジェクトマネージャーとしてとてもユニークな存在で。彼は、プロジェクトのあらゆる局面において「辞める」という選択肢を持っているんですね。普通のプロジェクトリーダーは、いわゆるサンクコストを気にして撤退の判断が遅れる。旧日本軍とかもそうですよね。ただ彼は、「より最悪な事態」を想定しているので、比較的早い段階で損切りができるみたいです。

小倉:そうですね。それはプロジェクトマネージャーに必要な資質だと思います。

プロジェクトの存続のためには「ちゃんと伝えない」ことが大事

前田:もう一つ、発酵という文化を考えた時に「人間すごいな!」と思うのは、たまたま発酵という現象がそこに現れたとして、それをパターン化して再現性を持たせられたということで。プロジェクトの場合、議事録とかガントチャート、タスクリストというものを残すんですけど、新メンバーとかがプロジェクトに入ったときにやっぱり100%正確には伝わらないんですよね。
だから我々は、様々なプロジェクトのあいだの共通言語として本書で「プロジェクト譜」をつくったというのがあります。一方で、そんなものを作ってないのに後世に残っている発酵って、一体どうやって伝えてきたのかというのがすごく気になる。

小倉:僕も最近気づいたんですが、実は「ちゃんと伝えない」ということがすごく大事なんですよ。逆説的ですが、ちゃんと伝えようとすると伝わらないんです。曖昧なまま伝えるのが大事だという境地に、私はようやく至りました。

前田:…その心は?(笑)

小倉:おっしゃる通り、味噌とかぬか漬けって数百年単位でずっと作り続けられていますよね。でも、僕が地方のおばあちゃんに、例えば「この漬物は、なんでこのタイミングで塩入れるの」とか聞いても、答えられるおばあちゃんいないんですよ。「…わかんない、なんでだろうね。うちのお母さんもそうやってたから」みたいな。
普通、原理をちゃんと知って、体系化しないと後世に残せない、と思うじゃないですか。違うんですよ、逆なんです。適度にあいまいな部分を残したほうが、後世に伝わっていきやすい。

前田:たしかに長く続いているものって、「なんで続いているのかわからないけれども、結果的にそれでうまく行く」ということがすごく多いですよね。映画の『ベスト・キッド』でも、主人公はなんの説明もないままワックスがけとかペンキ塗りとかの雑用をさせられる。でも終わってみると、修行の成果がわかって師匠に感謝する。

小倉:一応僕から見ると、いろいろ合理的な理由付けはできる。温度や湿度の関係とか、微生物の種類とかね。でもおばあちゃんたちは、その合理性を全く理解していない。僕が「おばあちゃん分かったよ!このタイミングで塩を入れるのは、こういう理由があるんだね!」って言っても、おばあちゃん全然興味ない(笑)

前田:我々からすると、にわかには受け入れがたいですけれども。

小倉:発酵的なものに触れてみると、ビジネスの原理で動いている僕たちからすると、到底受け入れられないルールとか世界観がたくさんあるんですよ。でも、それが実際に、いま見ても5兆円くらいの巨大な産業を生んでいる。結果から見るとすごい大成功を収めてるプロジェクトだと言える。そこから学ぶことはたくさんあると思います。

次ページ 「マニュアルではなくレシピを持つべき理由」へ続く


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