“伝説のゲーマー” が小説家に「ものを書くことは 幸福な呪い」

FPSというジャンルで世界4位の成績を残し“伝説のゲーマー”と呼ばれる 藤田祥平さん。2016年からウェブメディア「IGN JAPAN」で連載していたコラム「電遊奇譚」が注目を集め、2018年4月には自身の半生を描いた長篇デビュー小説『手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ』(早川書房)を発売した。藤田さんが「書くこと」とのかかわりをつづった本稿を、『編集会議』2018年夏号(7月31日発売)の特別編としてお届けする。

藤田祥平(ふじた・しょうへい)
1991年、大阪府生まれ。京都造形芸術大学文芸表現学科クリエイティブ・ライティングコース卒。「現代ビジネス」「ユリイカ」などでライターとして活躍。著書に、「IGN JAPAN」の好評連載をまとめたゲームコラム集『電遊奇譚』(筑摩書房)がある。2018年発売の『手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ』(早川書房)が長篇デビュー作となる。

「ものを書くのは、金を稼ぐためでも、有名になるためでも、セックスの相手を見つけるためでも友人をつくるためでもない。一言でいうなら、読む者の人生を豊かにし、同時に書く者の人生も豊かにするためだ。立ち上がり、力をつけ、乗り越えるためだ。幸せになるためだ。おわかりいただけるだろうか。幸せになるためなのだ。」─スティーヴン・キング、「書くことについて」

読書にかんする行為のなかでも、とりわけ書くことは、呪いにかけられた者に特有の行動であるようです。私は十四歳のときにカフカ『変身』を読んだのですが、わからないなりにも、そこに私の重大な関心事、世界の真実のようなものが、秘められていることだけはわかりました。それからは勉強もやらず、学校にも行かずで、まったく使い物にならなくなりました。

しかし、それから干支がひとまわりして、いまだにこうしてタイピングを続けているのですから、なんとも因果なものです。もしもカフカが生きていたら、私は彼にお礼を言わなければなりません。それから、どうしてあんな素晴らしいものを書いたんだ、おかげでおれはこうしていつも原稿用紙の前でうんうんと唸っているし、しかも生涯そうしていくことがわかっているんだ、と、冗談とも恨み節ともつかない語調で話しかけることでしょう。

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