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コラム

ビデオコミュニケーションの21世紀〜テレビとネットは交錯せよ!〜

『カメラを止めるな!』は、なぜ爆発的にヒットしたか?関係者に聞いてわかったこと

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映画界の二人の目利きがスクリーンをこじ開けた

市橋さんに聞いた話でもうひとつ、びっくりしたというか、逆に納得したというか、意外な話がありました。

前回の記事で私はヒットの理由の第一に、上映館が拡大したことを挙げました。奇妙な言い方に聞こえるかもしれませんが、ヒットしたから拡大公開したのではなく、拡大公開したからヒットしたのです。わかりますか? たくさんの映画館で上映してたくさんのお客さんが観てくれるから「ヒットした」と言えるのであって、いくら口コミで話題になっても最初の2館だけではヒットしようがない。だってお客さんがたくさん入らないですからね。

そして前回の記事では、6月23日に2館で公開した映画が、8月3日には全国のTOHOシネマズで上映されたのは前代未聞の大英断がなされたからで、どうしてそんなことが起こったのか不思議だと書きました。2館が連日満員になったからって、大きなスクリーンを一度にたくさんあけるなんて普通はしません。

そのからくりを市橋さんから聞くことができました。

映画が話題になると、映画館が個別にコンタクトしてくれました。イオンシネマが連絡をくれて大宮などで7月6日から上映を決めてくれたり、渋谷のユーロスペースや川崎のチネチッタでは7月14日から上映を開始しました。私も7月20日に川崎で見たら、けっこう大きなスクリーンが満席で最後に拍手が起こる賑わいでした。ただもっと大きく公開を広げるにはちゃんとした配給会社がついてくれる必要がありました。

少し時間を戻すと、アスミックエースの映画事業担当者が7月1日にある映画を観に行ったらつまらなくて、滅多にしないことだけど途中で映画館を出ちゃったそうです。
で、そう言えばと気になっていた『カメ止め』を観に行ったらどえらく面白かった。翌日市橋さんに電話して、共同配給をやらせて欲しいと提案。もちろん市橋さんにとっては願ってもない申し出、というわけで、翌日には話がまとまったそうです。ものすごいスピード感です。この時点で、自主映画が商業映画の配給ルートにのりました。

アスミックエース担当者は7月6日にはTOHOシネマズに売り込みに行く。編成担当者を試写に誘うと、いや劇場で見るよと、すぐに観に行ってくれたそうです。これはいける!ぜひうちのチェーンでかけたい!と言ってくれたわけです。やがて夏休み映画が続々公開される。ところが、今年の夏の目玉だった映画がいまひとつ振るわなかった。『カメ止め』は先に上映を開始したチネチッタなどのシネコンで大きなスクリーンの客席を埋めている。そこでTOHOシネマズでも、席数の多い大きなスクリーンで上映されたのです。

実際、私は8月のお盆の週、つまり書き入れ時に2回目を観に行きました。前日に予約しないと入れないほどの人気。日比谷のTOHOシネマズの500席弱のスクリーンでしたね。観終わると隣の小さなスクリーンから同じタイミングでお客さんが出てきました。そっちのスクリーンで上映していたのは『未来のミライ』。夏休み映画の目玉のひとつだったはずです。逆転現象が起きていたんですね。衝撃を受けました。そんなことってあるのか。あるんです!(ちなみに私は息子が小学生の頃にデジモン映画を一緒に見て以来の細田守監督のファンで、決して『未来のミライ』を貶めるつもりはないことは書き添えておきますね)。

ちょうど8月半ばには、『カメ止め』の話題が絶頂を迎えていました。監督の上田慎一郎氏が『報道ステーション』や『ワイドナショー』に出て、いかにも面白そうに映画を語っていました。役者たちもテレビに出演したりして、『カメ止め』が日本の人気者になっていた。絶妙のタイミングで拡大公開が展開されたわけです。

アスミックエースとTOHOシネマズの二人の目利きが動いた。だから拡大公開が成立したのです。二人ともなぜか小さな劇場に足を運んだのも面白いですね。匂ったんでしょう。どうやら『カメ止め』からは、普通の映画にはない不思議な香りが漂ってきたのだと思います。

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