何度も何度も火をつけると爆発する?
この『カメ止め』をはじめ、少し前の『シン・ゴジラ』や『君の名は。』『この世界の片隅に』などのヒットを見ていくと、こんなことが言えるかなと考えていました。
「コミュニティ」がヒットには必要なんじゃないか。それは少し時間をかけて“育てる“ものではないか。そこに火をつけるとボッと燃え広がるんじゃないか。一連のヒット作にはそんな傾向を感じ取っています。
そしてこの「火をつける」のは、小さな火を何度も何度もつける必要があるのではないか。マッチを擦って薪に火をつけて、またマッチを擦って、というのを繰り返す。
その際、いろんな火のつけ方をするといいみたいです。『カメ止め』も、いろんな火がついていて、新聞の映画評だったり、前回書いたようにラジオだったりした。インフルエンサーのつぶやきも小さな火かもしれない。
二人の目利きは、そんなコミュニティを発見して、キャンプ場を大きく広げてくれたのかもしれません。結局『カメ止め』の大ヒットは、映画を気に入った人たちがいろんな形で火をつけたり薪をくべたりした、その集積によるもののようです。
火を広げやすくしたのはTwitterのおかげなのでしょう。SNSがコミュニティをつくりやすくしたし、火をつけやすくしたし、燃え広がりやすくした。そういうメカニズムであって、Twitterだけのおかげでヒットするほど単純ではないのだと思いました。
それも含めてのソーシャルメディアの時代なのでしょう。新聞の映画評も、ラジオ番組の書き起こしも、そして二人の目利きの英断も、ソーシャルメディアの枠組みの中でとらえるべきなのだと思うのです。マスメディアで上から情報を降らせるのではなく、下から沸き起こってくる動きを要所要所で広がるようにうながす。そんな風にして物事が伝わっていく。みんなが巻き込まれていく。『カメ止め』がはっきり示してくれたのは、草の根の動きをふくらませれば世の中を動かせるのだという、力強い実例だったのではないかと思います。
境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)
1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Borer」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書「拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―」 株式会社エム・データ顧問研究員/電通総研フェロー お問合せや最新情報などはこちら。
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