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コラム

人を動かす隠れた心理「インサイト」 ~全ての仕事に生きる、深層心理の洞察方法~

PRはなぜ難しい? 人々にとって「どっちでもよいこと」が、インサイトで「自分ごと」になる

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ターゲットの興味関心に寄り添うことが起点になる

PRに関わる人ならよくご存じの事例で、説明しましょう。カンヌライオンズ2017のPR部門でグランプリを獲得した「Fearless Girl(恐れを知らない少女)」です。

「Fearless Girl」のクライアントは投資ファンドの企業です。資金を預ける側にとって、投資ファンド会社はどのように感じられているでしょうか。

確かにパフォーマンスの差は全くない訳ではありませんが、一定の水準以上を収めている企業であれば決定的な差があるとも思えません。先ほどの「どっちでもよい」状況です。従って、声高に自らの優位性を語ったとしてもほとんどの受け手には響きません。
そこで必要なのが、自らのブランドや商品、企業を離れて、「人間を見に行く」ことです。

ブランドや企業との関係性を出発点にするのではなく、純粋に「ターゲットの興味関心事」に寄り添い、その人々が興味や関心を持っていることを探すのです。

そして、言葉にならないもののそのことに無意識に感じている良さやポジティブな感情を探り出します。これがすなわち「どのような価値を感じているか」というインサイトです。
 
「Fearless Girl”の例でいえば、「女性と男性の社会的な格差」が人々の関心事として存在し、まず「同じ人間同士なのに男女に差があることは納得いかない」という認識があります。

そして、女性の社会的地位について持論を述べたシェリル・サンドバーグ(FacebookのCOO)の「LEAN IN」が全米のベストセラーになる、あるいは後に「#MeToo」として結実する、被害者によるセクシャルハラスメントの告発が始まる(2015年10月には既に女優のアシュレイ・ジャッドらが加害者の名を出さずにインタビューで業界内でのセクハラの問題を語っていた)、といった事象から、「理不尽な現状にあっても、まっすぐな心で立ち向かうことは素晴らしい」といった人々のインサイトを、制作者たちが読み取ったと推測されます。

ピュアな勇気や力を気持ちのよいものだという心理が、無意識の領域にあるのです。

このように、ます投資ファンドというテーマを離れて「人間を見に行く」ことで、人々の興味関心事に関するインサイトを見つけます。その次に、見つけたインサイトとPRの対象であるその投資ファンドとの接点を見出し、アイデアを作るのです。「接点を見つける」とは、例えばブランドの持つアセットや、直接的にブランドが持っている物性的な特徴との関連を見つけ出すことです。言い換えると、ブランドの持つファクトとそのインサイトを結びつけるのです。

「Fearless Girl」においても、ウォール街のマッチョ的な男性性を象徴するような牡牛の像「チャージング・ブル」と少女の像を対峙させる、とうシンボリックなコアアイデアが、先ほどの「恐れずにまっすぐな気持ちで戦うことは素晴らしい」というインサイトに合致します。そして、ネット上やその設置場所での熱狂的な反応だけでなく、「女性たちを重視する企業を支援する」というこの投資ファンドの商品や企業活動の内容と無理なく結びつき、彼らのビジネスにも大きな反響がもたらされたのです。

このように、優れたPRキャンペーンの多くは、ブランドを離れた「人間」の関心事に関する心理にアイデアが結びつく、という構造を持っています。逆に、失敗するPRの企画は、次のようなステップを踏んでいます。

1.ブランドや商品について、人々がどのように感じているか、考えているかを調べる。
2.その感じ方や考えに基づいて、ブランドや商品起点のアイデアを考える。
3.ブランドや商品からのジャンプや広がりがない表層的なアイデアが生まれ、人々の心を動かせない。メディアにも新鮮味が感じられないので取り上げられない。

ここでの問題は、スタートの時点でブランドや商品から離れていないことです。ここから始めてしまうと、インパクトのあるクリエイティブなアイデアを生み出すことは難しいのです。(才能のあるクリエイターは、このようなステップを無意識のうちに避け、人々のインサイトを読み取ってアイデアを作っていますが)

次ページ 「インサイトを探る対象を定める「道しるべ」を活用する」へ続く