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コラム

人を動かす隠れた心理「インサイト」 ~全ての仕事に生きる、深層心理の洞察方法~

「インサイトが教える、ヒットと失敗の5つの法則」〜その3「キーインサイト」編

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簡単に言葉にできない「隠れた不満や欲求」を、インサイトリサーチで探り出そう

先の事例を振り返りながら、キーインサイトについて考えてみましょう。

当初、問題であると思われていた「料金が高い」と「部屋の中の物が増える」は、失敗の法則に挙げられていた「表層的な不満」でした。このように例示するとほとんどの方は納得していただけるのですが、あなた自身のビジネスの現場で、同じようなことが起こっていないと言い切れるでしょうか?

アイデアを得ようとする時、あるいは思ったような成果が出ておらず改善が必要な時、現状や課題を理解しようとするがために、直接的な消費者調査やお客様の声として寄せられた不満や意見を鵜呑みにして進んでいく場面は、まだまだ多くの企業で見られます。

しかし事例で紹介した通り、それは消費者が「聞かれて」答えたことであり、辻褄合わせの「回答のための回答」です。

心の表面には出てこない「隠れた心理」、すなわち自分自身ですら気がついていない、意識していない不満や欲求は、ストレートに問い質しても答えようがありません。漠然と抱えていたり、そのこと自体に意識を向けることがなかったりして、意識化されていない領域が多くあるということです。

先の調査の例でおわかりの通り、不満を明らかにするには、単に「どんな不満を感じていますか?」「何が不満ですか?」「どうして買わないのですか?」といった“理由”を聞いても、人間は答えるのは無理です。読者の皆さんも、同じような質問をされた状況を想像してみればわかります。

自分が担当するブランドや商品に対する不満を知りたいなら、キーインサイトに関するヒットの法則にある「当該カテゴリーやカテゴリーを超えた生活における隠れた不満・未充足」を、心理学の投影法をベースにした独自の手法などによって明らかにしなければなりません。先ほど触れた「インサイトリサーチ」の部分に、このような考え方を用います。

の本心は、あいまいなものを通じて初めて明らかにすることができます。例えば私たちは、「ビジュアル」を媒介物として潜在意識を掘り下げる「ビジュアル刺激法」といった方法を用いています。先に述べたように、直接的に聞いてもわからないのです。

そして、「当該カテゴリーを超えた生活における隠れた不満や未充足」に着目することを特に意識しましょう。なぜなら、カテゴリー内だけで考えようとすると、現状の市場環境や競合ブランドの中でしか考えられず、「既存路線」の中に思考が止まってしまうからです。そうすると、新しいアイデアを得ることも難しくなります。

人々が生活の中で感じられている価値をまず明らかにして、その価値と比べた時に現状にはどんな不満があるか、どんな欲求を充たせば良いか、を探り当てれば、「表層的な不満」に止まらない心理、すなわち有用な真の意味でのインサイトが見つかり、新しい突破口を見つけることができます。

この思考プロセスを、私たちは「人間を見に行く」という言い方で表現しています。先の例のように、「幼児向け通信教育」というカテゴリーだけではなく、「育児」という生活の領域に広げて考えることです。

その広げた領域の中で潜在的に「良い」と感じられること=価値インサイト、を探り出す。そして、その価値と対比すれば、最終的に対象となるテーマ(広告したい商品、売りたいブランド、など)に感じられている、潜在的な不満や欲求が浮かび上がってくるのです。

このようなプロセスを踏めば、ありきたりの表層的な不満ではなく、人の心をつかむアイデアを生み出すキーインサイトをしっかりご手にすることができます。

先の幼児向け通信教育の例で言えば、「閉ざされた部屋で子供とふたりきり、煮詰まった関係。チマチマした日々に、さらにチマチマした教材が送られてくるのは、まっぴらごめん」といった心理がキーインサイトになります。

さらに、このような手順を踏むことで、不満の反対に位置するバリュープロポジションに転換して、発想することができるようになるという利点もあるのです。

幼児向け通信教育の例で言うと、先のキーインサイトに対するバリュープロポジションは「ダイナミックな体験を与えて、子供のやる気を引き出す教材」という価値提案でした。この「ダイナミックな体験」という部分は、先に紹介した価値「夫がアウトドアで子供と楽しそうに遊んでくれているのを少し離れた場所から眺めているとき、あ〜子供を産んでよかった、と実感する」から発案されているということです。

これを受けた実際の展開では、まずDMにはその遊ぶ子供の姿が描かれ、「体験」という言葉を強調したコピーが活用されました。さらに、実際の教材の内容にも子どもの「体験」を促すものが増えるようになったのです。これにより、実際のビジネス的にも大きな成果が得られました。

「人間を見に行く」手がかりのためには、このようにカテゴリーの抽象度を上げる(≒レイヤーを上げる)方法もありますし、第1回に紹介した「生活の14カテゴリー」といった道しるべを使うことも有効です。その時々のテーマに合わせて考えてみてください。

改めて、「だいたい良いんじゃないですか?時代における『ヒットの法則』と『失敗の法則』」を紹介しておきます。

次回も、引き続きこの法則の中から、インサイトを上手に活用するというポイントを紹介していきます。次回は、「メンタルアベイラビリティ」に関する法則をご紹介します。


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