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「CES 2020」現地レポート④— テクノロジーの祭典でも、真の主役は「人間中心」と「体験」(森 直樹)

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データの利活用 vs一層強く求められるプライバシーやセキュリティへの配慮

近年のCESでは“データ”の取得と活用による、新たなエコシステムの構築や事業創造への取り組みが多く発表される傾向にあります。センサーの高性能化、低電力化、小型化により取得できるデータは多岐にわたるようになってきました。

ウェアラブルデバイスを通じての生体データや、行動ログ、スマートホームを通しての自宅環境(電力消費や温度、冷蔵庫の中身まで)、さらにスマートシティやコネクテッドカーはデータの取得と利活用を前提としたものです。さらにAIや5Gなどの進化はデータの取得と利活用の利便性・即時性を通信の面で、格段に向上させるでしょう。

今回のCESでもLG、SAMSUNG、QualcommなどのIT巨人企業、デルタ航空やP&Gなどの非IT企業などは、データを取得する仕組み、利活用のエコシステム構築、それらを応用することを前提とした製品・サービスが主な彼らの“ファクト”となっていました。この傾向は続くでしょうし、データの取得と利活用のエコシステムの構築(そのためのオープンイノベーションやAPIの整備、SaaSモデルの開発など)と製品やサービスがリンクすることが競争優位を得る上で必須といって過言ではないでしょう。

さらに、それは製品やサービスのみならず、コミュニケーションとも連動しています。製品・サービスを通じて取得したデータをコミュニケーションに活用することで、パーソナライズやOne to Oneコミュニケーションが可能になるからです。逆に、製品からコミュニケーション、CRMに至るまでデータを活用するプラットフォームの構築やビジネスモデルを構築できない企業は、いっそう厳しい戦いを強いられることになるのではないでしょうか。

そうした中、欧州発のGDPRなど企業が取得・保有する“データ”の利活用に際して“プライバシー保護を求める流れが米国企業に影響を与えている様も感じられました。これは昨年のCESからも感じられたことです。今年のCESでも多くのテクノロジー企業は、その基調講演や記者発表の中で、自社のデータの取り扱い、ことさら「適切な取得」、「管理」、「プライバシーへの対応」、そのための「セキュリティへの取り組み」について例外なく語っていました。

世相を反映してか、AppleのSenior Director・Global PrivacyのJane Horvath氏が、専門セッション“Chief Privacy Officer Roundtable: What Do Consumers Want? ”という、プライバシー専門のセッションに登壇していました。Appleの社員がCESに登壇するのは非常に珍しいことです。

GAFAの中でも独自の個人情報の取り扱いをしているAppleがCESに“プライバシー”の専門セッションに登壇したことも、世の中の機運をCESが反映してのことといえるでしょう。次の10年、データ・エコノミーが重要とされるなか、プライバシー保護という新たな流れは、コミュニケーションに携わる全ての読者はウォッチし続ける必要があるのではないでしょうか。

CES2020を終えて、一際目立ったメッセージ“人間中心”と“体験”のメッセージ

デルタ航空、P&G…これまでのCESとは趣が違う、けれども世の中に対する影響力の大きな企業がCECにおいて存在感を増している、そんな印象の強いCESでした。そして、SAMSUNGやLGなどテクノロジー巨大企業を含めて、意図して発信されていたのは“人間中心”と“体験”というメッセージ。どの企業も、テクノロジーによる体験の変革、人間起点でのテクノロジーの採用に言及していました。

また、“データ”中心のエコシステムを構築しようとしている米巨大企業は、プライバシーへの配慮に言及をし始めていました。“人間中心”思考で、人と向き合いながら、これまで以上にあらゆる生活や行動接点からデータを取得しビジネスへの利活用を模索しているのです。

いずれにしても、今回のCESでも米国市場・国際市場で競争力の高い巨大企業の経営層が、テクノロジーの取り込み、新しいビジネスモデルへのチャレンジ、データ中心のエコシステム構築へのチャレンジ、人間起点での経営の舵取りをしている姿を目の当たりにすることになりました。CESでは、それらの取り組みがCESの文脈でストーリーとして語られ、彼らのブランドに大きく寄与したと思われます。

秀逸なのは、ストーリーが一貫している点。デルタ航空もP&Gも、昨年のCESからまったくぶれておらず、さらにアップデートされていました。SAMSUNGやLGについては、より長いスパンで見ても、これだけ要素技術が変化する中で、メッセージのスタンスはブレていません。そして、そのスタンスがファクトとしての製品・サービスに反映され、アップデートされているのです。

彼らのCESでの発信は、単なる新たなテクノロジーを採用した製品・サービスのお披露目の場ではありません。本稿を読むマーケターの皆さんは、彼らが発信するストーリーが、いかにファクトとしての製品・サービス、さらには彼らが向かおうとしている未来に反映されていくのか、に注目してほしいと筆者は考えます。
 

森直樹
電通 CDC エクスペリエンスデザイン部長 クリエーティブディレクター

光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。米デザインコンサルティングファームであるfrog社との協業及び国内企業への事業展開、デジタル&テクノロジーによる事業およびイノベーション支援を手がける。日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会の幹事(モバイル委員長)。著書に「モバイルシフト」(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST(INTERACTIVE Silver他)、Spikes Asia(PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。ad:tech Tokyo公式スピーカー他、講演多数。