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プロジェクトチームの作り方を変え新規客を獲得、キヤノンの手のひらサイズプリンターiNSPiC

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テクノロジーの進歩とそれに伴う人々の価値観の変化によって、これまで主力を担っていた商品が別の商品に取って代わられる。そんな変革の時代に多くの企業が直面しています。過去の成功や前例にとらわれず、生活者にいかに新しい価値を提供することができるか、これまで商品に接することのなかった層をどう取り込むかが収益性を高める重要なカギになります。今回は『予定通り進まないプロジェクトの進め方』(宣伝会議2018年刊行)の著者、前田考歩さんが、キヤノンマーケティングジャパンで「iNSPiC」のプロジェクトリーダーを務める吉武裕子さん、チームメンバーの小村南海子さんに話を聞きました。若手女性社員の挑戦を、プロジェクト譜というプロジェクトの進め方を構造化・可視化したフレームワークで解説します。

ターゲット層に近い若手中心のチームを編成し、顧客理解を深め、経験を積ませることも目標に

前田:ミニフォトプリンターのiNSPiC(インスピック)は私が子ども向けに開催しているイベントで使わせていただいた際に知った製品で、これまでプロが使用するハイクオリティなカメラというイメージの強かったキヤノンから、このような製品が出るということに新鮮な驚きを覚えました。iNSPiCはどのような目的、背景で開発され、どのような戦略で販売されていったのでしょうか?

吉武:iNSPiCは2018年9月に発売しました。元々、アメリカで他社から販売されたミニフォトプリンターがヒットしていて、今後市場拡大が期待されているこのカテゴリーの商品を、日本でも投入しようというのが始まりです。

プロモーションや販売戦略を立てる際、アメリカでは写真を学校のロッカーに張るなど日本とは異なる写真文化があるので、ただ製品を日本に持ってくるだけでは受け入れられないんじゃないかという考えがありました。そこで、日本ではどのような使い方、楽しみ方があるんだろうか?というところから考え直しましょうというのがプロジェクトの発端です。

前田:スマートフォンの普及によって、撮影したデータをプリントしない人々がかなり増えていますが、そうした環境で、どのようにプリント需要を掘り起こしていこうと考えらえたんでしょうか?また、それをどのようなプロジェクトチームを組んで、進めていかれたんでしょうか?

吉武:インクジェットプリンターのような製品は写真をプリントして、しっかり記録を残そうということを訴求してきましたが、ミニフォトプリンターはスマートフォンから簡単にプリントできて、持ち運びもできるところから、いわゆるプリンターという機械ではなく、コミュニケーションツールとして新しい価値やカルチャーを提供できるんじゃないかと考えました。プロジェクトが立ち上がった背景としては、インクジェットプリンターやカメラの厳しい市場環境がありました。

従来の顧客層は40~50代の男性の方々が多いですが、こうした製品をきっかけに、今までキヤノンがあまり接触してこなかった新しい世代、とくに10~20代といった若年層にアプローチしたいという期待がありました。今までコミュニケーションしてこなかった層にアプローチしていくには、実際にターゲット世代である20代の女性を社内から集めて、生の声を聞きながらマーケティングプランニングをしようということで、プロジェクトチームが編成されました。

通常は、ある程度の経験を積んでからマーケティングプランニングに関わることが多いのですが、そうした経験を積んだ社員は20代後半から30代になってしまいます。そうすると今回の製品のメインターゲットのことがわからない。そこで、ターゲット世代に近い、入社したばかりの社員や20代中盤の社員を集めてチームを編成しました。

前田:新しい製品で、今まで顧客ではなかった層にアプローチするために、従来のチームづくりのやり方を変えたというのは、とても挑戦的ですね。メンバーの人数や男女比、所属部署など、どのような構成なのでしょうか?

吉武:人数は約20名で、プロジェクトリーダーに私、メンバー全員が女性です。営業や企画、ECや会員向けサイト担当者など、部署はもちろん、本社だけでなく大阪や仙台など各地方からも集まっています。インクジェットプリンターに携わるメンバーもいれば、カメラに携わるメンバーもいます。

前田:ミニフォトプリンターというカテゴリーから考えると、インクジェットプリンターに関わる方が中心かと思いきや、そうではないんですね。

吉武:カメラとプリンターは部門として分かれていて、それぞれの事業を担当企画部門が検討するのが常でした。ただ、iNSPiCの新製品がカメラ付きだったこともあり、いろいろな視点が必要だということで、カメラの企画部門からも参加しています。

前田:このプロジェクトを進めていくうえで、競合や障壁になりそうなものはなかったでしょうか?たとえば、これまでカメラは画素数、プリンターであれば再現度など高スペックな路線を追求してきたと思うのですが、そうした流れを会社として求めていた場合、社内からの批判や疑問の声といったものが予想されるのですが。

吉武:たしかにそれはご指摘の通りで、「(キヤノンとして)この画質でお客様は満足して下さるのか?」といった声はありました。ただ、iNSPiCはそういう製品ではないと考えていたので、スペックにフォーカスするような議論はしないようにしました。

前田:スペックを追求してきて、かつその方針や価値観で成功していると、それらが強みを発揮しないジャンルの製品であっても、容易に考えを変えられない。あるいは異なる考えを受け入れにくいですよね。

吉武:そういう意味で、このプロジェクトではスペックとは異なる、ユーザーが求めている価値を体系立てて説明できるようにしていきたいところです

(※図は拡大してご覧ください)

前田:プロジェクトを進めるための体制や置かれている環境について一通りお話をうかがったうえで、プロジェクトのプランをどのように描いていたのかを、プ譜(プロジェクトの状況や要素間の関係性を可視化するフレームワーク)を用いて表現したいと思います。

iNSPiCのプロジェクトは、目標が「過去アプローチしてこなかった(接点のなかった)若年女性層を獲得する製品を投入する」というものでしたが、それがどうなっていたら成功といえるのかという評価指標、判断基準はどのように設定されていたでしょうか?また、それを実現するためには、自分たちのチームやプロモーションの方法などが“どうあるべきか”という状態をつくりあげることが必要ですが、今回のプロジェクトではどんなあるべき状態を設定されたのでしょうか?

吉武:大きく三つの目標があります。売り上げの目標は当然ながら、今回のプロジェクトでは、若年層に対してアプローチをし、そこでつながった顧客層に対して、次の一手が打てるようになるための顧客理解を深めるという目標もありました。たとえば、今はインスタグラムで検索をするユーザーが多いですが、ターゲット層がiNSPiCと検索したときに、自分もiNSPiCを使ってみたいと思わせるような投稿が表示されるよう