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損保ジャパンの動画を活用した業務効率化、プロジェクトの進め方【前編】

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必要性は叫ばれながらも、実際にはなかなか進まないデジタルトランスフォーメーション。紙中心のコミュニケーション手段がデジタルに置き換われば、そこに割いていた多くの時間を、より価値のある業務に割り振ることができる。そう考え、動画を活用した業務効率化プロジェクトを成功に導いた、損害保険ジャパンでイノベーションに取り組む遠山岳志氏、宇津木奈央氏、河口晃一郎氏に、『見通し不安なプロジェクトの切り拓き方』の著者である前田考歩氏が話を聞きました。今回はその前編です。

「勝利条件」は、営業社員が手軽に動画制作できるようになること

前田:まず、損保ジャパンさんが動画活用プロジェクトに取り組もうとしたきっかけと、遠山さん、宇津木さん、河口さんがどのような立場でこのプロジェクトを推進されているのか教えてください。

遠山:私たちのチームは、IT企画部企画グループ付きのイノベーションチームとして、会社にとって新しい価値のある取り組みを実施するミッションを背負っていました。多くのテーマがありましたが、そのなかで紙中心の文化を改善したいという思いと、社会的に動画活用の流れが進んできているという実感から、動画活用をひとつのプロジェクトテーマとして選びました。

また、私たちのビジネスモデルは商品を実際に販売する保険代理店によって成り立ちます。代理店さんの売上向上を支援するツールとして、動画を活用したいと考えました。これは、競合他社も同じく紙中心の文化にあるなか、積極的に動画を活用して、代理店さんとのコミュニケーションをスムーズに、わかりやすくしていき、差別化を図りたいという狙いもありました。

宇津木:私自身、ある他社サービスの営業を動画で受けたことがあり、動画による説明・プレゼンテーションのわかりやすさを実感しており、自社でも取り組みたいと思っていました。

前田:プロジェクトの目標は「営業面での他社差別化」ということですね。プロジェクトにおいては掲げた目標が“どうなっていたら成功と言えるか”という「勝利条件(※成功の指標)」の設定が重要ですが、この目標に対してどのような勝利条件を設定されたでしょうか?

遠山:弊社の営業店は全国に524(2020年4月現在)店舗あります。それぞれの営業店の営業社員が代理店さんにメール、FAX、パンフレットといったツールでコミュニケーションを取っていました。お届けする情報は、商品案内はもちろん、交流会の案内などさまざまです。そうした情報を短い時間で見ることができ、わかりやすい動画にしたかったのです。

ただ、そのような動画を本社がまとめて制作しようとすると、企画、発注、制作、納品と、どうしても時間がかかってしまいます。また、そうして制作した動画は全国の支店に通用するような汎用的な内容になり、必ずしも個々の支店に最適化された内容とは限りません。そのため、個々の営業社員が自分で動画をつくれるようにしたいと考えました。

パワーポイントで資料制作するのと同じように、皆が動画を制作して、代理店さんとコミュニケーションを取れるようになったら、まずは成功と言えると考えました。

動画は「長時間もの」という社内の固定概念を覆す「90秒動画」

前田:勝利条件は「社員がパワーポイントと同じように動画を使いこなし、代理店とコミュニケーションができている」ということですね。この勝利条件を実現するためにはさまざまな施策があったと思いますが、施策を勝利条件へとつなげる上で鍵となるのが、「中間目的」です。「中間目的」とは、勝利条件を実現するために、プロジェクトに関わる諸要素が“あるべき状態”のことです。今回の勝利条件を実現するうえで、どのような中間目的を設定されたのでしょうか?

遠山:弊社では元々、オフィシャルな社長メッセージや会社の取り組みなどを動画にして配信していました。また、研修用動画なども外部パートナーに依頼をして制作していましたが、これらの動画はほとんどが1時間くらいの長さのものでした。そのため、動画といえば、このように、しっかりつくり込むか、時間の長いもの、というイメージが社員にありました。

ただ、今回の動画活用プロジェクトでは、各営業店で必要な動画を、現場の社員が制作することが目標。現場の負担を考えれば、1時間の動画を制作するのはまず無理です。そのため、動画制作スキルや経験がなくても、ビジネスで使用できるクオリティの動画が制作できるアプリケーションを使用することにしました。そのアプリケーションのなかで、保険商品の説明やイベントのご案内などを行うのに適したテンプレートを使用し、90秒で完結する動画を制作するようにしたのです。

前田:中間目的は「現場で動画を制作する負担が下がっているべき」、ということですね。この状態を実現するための施策はうまく進んだのでしょうか?

遠山:プロジェクトの内容を本社の関連部署に相談してみたのですが、当初は反応が芳しくありませんでした。動画というと1時間の研修もの、というイメージが強く、90秒で伝えるということにピンとこなかったのかも知れません。

ただ、代理店さんも忙しいので、長い動画を見続けることは難しいです。とにかく動画は90秒にすると決めて、現場の営業社員に動画を撮ってみないかと声をかけていきました。

前田:全社に利用を促すということはされなかったのでしょうか?

遠山:動画を営業現場が作成すること自体へのハードル、90秒以内限定への賛否、使用する動画制作ツールを簡単と受け止めるかどうかのリテラシーもさまざまなので、全社に一律で展開する方法ではうまくいかないと考えました。よって、まず意欲的な営業店メンバーが好事例をつくり出し、それを社内SNSで共有・横展開することにしました。その結果、同じ営業店がつくった動画を実際に見ることで、簡単さや90秒の満足感を理解し、自分たちもやってみよう、という状態をつくり出すことができました。

次ページ 「安心して撮影できるよう、ガイドラインを作成。年間400本制作されるまでに浸透」へ続く