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コラム

NYから解説!日本企業のグローバルブランディング

大坂なおみ選手の取材拒否と、ネガティブ・メディアトレーニングがなくなる日

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大坂選手個人ではなく、チームの問題だ

今回の大坂選手のやり方を振り返ると、たしかに稚拙だったのかもしれない。「エージェントもついていながら、こんなやり方をするとは……」という意見も耳にした。前もって運営側に伝えることで騒ぎを防ぐスマートな方法もあったのではないかともいえる。しかし、そうすれば今回の問題は「小さな事」として終わってしまい、大きな問題提起を世の中に突きつけることはできなかっただろう。

大坂選手は今回、インタビューを断ったことで、仏テニス連盟からの罰金と4大大会出場停止の警告を受けた。そして、全仏オープンを棄権し、Twitterで声明文を発表した。この一連の流れがあったからこそ、世の中は大坂選手の状況に注目した。結果的に、賛成・反対両方の声がありながら、多くの人が気に留めるニュースとなったのだ。

ここで大事なことは、大坂選手はプレイヤーとしての“いち個人”でありながら、「大坂なおみ」というチームでもあることだ。試合に出るのは本人だけだとしても、そこに関わる人が多く存在するため、この問題は彼女ひとりだけのことではない。結果を出しながら可能な限り息長く、より良い選手活動をしていく上で、その方針と姿勢を示すという意味でのブランディングとマネジメントは、社会との信用を築きこれからの期待値をあげる意味でも不可欠だ。

そこを踏まえ、今回のケースでいくつかのポイントを考えてみよう。

本件、非常にデリケートな面としては、彼女がうつ病を患っていたという事実が挙げられる。それを伝えたのは、全仏オープンを棄権した後の、Twitterに投稿した声明文の中。会見拒否をした試合前の時点ではその事実は伝えていなかった。

もし最初に会見拒否をした時、うつ病であることを明らかにした上で「会見をしない」と仏テニス連盟に伝え、話が受諾されたとしよう。彼女は試合には出られて、かつ会見をせずに済んだかもしれないが、事あるごとに病状について取り上げられ、会見をしないが故に勝手な憶測で記事をかかれることになる。また色眼鏡で見られて、ちょっとした不調さえも「うつ病のせい」だとネガティブな報道をされたかもしれない。

こうした報道は、今回の全仏オープンだけでは終わらず、これから先もずっと続くであろうことは簡単に想像できる。だからこそ当初、その具体的な理由は述べずに会見拒否をしたのだろう。筆者が彼女のエージェントだったとしたら、やはり最初はうつ病の事は伏せたまま、会見がどれだけのストレスになっていてプレーに影響が出るかを訴えて「会見はできない」したがって「行わない」と伝えただろう。それも罰金が課される事は予測した上で。

しかし今回は、4大大会主催者が試合後に共同声明を発表し、大坂選手の行動を「違反行為」とした。全仏側は罰金を科し、繰り返し拒み続けた場合は大会からの失格処分に加え、さらなる罰金や4大大会出場停止の可能性を通達したのだ。

これは青天の霹靂だったのではないだろうか。これらを課されてまで全仏オープンを戦い切るなど、正常な精神状態であったとしても想像を絶する負荷だ。ましてや彼女の現状では、選手生命にかかわる可能性だってある。また、大会中にこの騒ぎがずっと続けば、他の選手の邪魔にもなる。であれば、ここで終わらせようと決断に至ったのだろう。棄権をすることは彼女を守るためであり、他の選手に迷惑をかけないためだ。

そして、今回のことを明確に説明するために、「うつ病」を告白する選択をしたのだろう。言わずに済めばそうしたかっただろうが…。メディアに何でも「うつ病のせい」にされる可能性があると同時に、世間には様々な考えの人がいるため、中には彼女が「うつ病であることを免罪符にしている」と思う人も少なくないだろうと考えていたのではないだろうか。

大坂選手及び彼女のチームのやり方は決してベストだったとは言えないが、決して間違っていたわけではない。声明文でも明確な説明をしつつ、誰のことも責めていないのだ。

この一連の問題について、「この様な精神状態の彼女を、なぜ前面に出して発表するのだろう?」との声も聞こえてくる。ただ、Twitterでの声明文投稿などは本人でなくたって十分できる。何が大事かと言えば、大坂選手本人の名前のもので、チームとしての意思表明をすることだったのだ。

それに、なんらかのメディアを通してなんらかのコメントをつけられた上で公開される声明文より、Twitterで自ら発表した方が余計な色がつかないと判断するのも当然なのではないだろうか。メディアに対するストレスが今回の問題の発端と言っても過言ではないのだから。

次ページ 「相手を人として尊重する会見を」へ続く