コラム

世界で活躍する日本人マーケターの仕事

世界で活躍する日本人マーケターの仕事(サントリーペプシコビバレッジタイ 川口洋之さん)後篇

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ビッグブランドではできない面白さをチームにつたえる

—どういうチーム体制でサントリーブランドを展開しているのですか?

3名のメンバーがいます。「TEA+」のブランドマネージャー、これから発売予定のブランドのマネージャー、そして調査担当の3名です。3名ともタイ人です。私を含めて計4名でサントリーブランドを担当しています。

—タイの人と仕事をするうえで、気を付けていることはありますか?

タイ人ならではというよりも、サントリーペプシコ内のサントリーブランド担当という意味で気をつけていることがあります。サントリー飲料ブランドはこれまでタイで苦戦を続けてきました。2000年代からに複数のブランドをローンチしてきたのですが、残念ながらいずれも失敗に終わり、2020年の一時期サントリー飲料ブランドはタイではゼロの状況でした。一方、合弁の相手先はペプシコです。「ペプシコーラ」などの誰もが知るブランドがあり、社内にはそうしたビッグブランドを担当している同僚がいます。

そのためメンバーには、ビッグブランドではなく、新しいブランドを担当する面白さを語り続けています。私は日本で「BOSS」を担当していたから分かるのですが、ビッグブランドにはヒトモノカネが揃っているし、色々な部署からサポートがあります。ただ、新しいブランドは、ビッグブランドでは体験できない、小さいながらも新しいことができる面白さがあります。「私が仕掛けた、タイの人にとっての最初のウーロン茶です」というような状況を作れるチャンスがあります。ビッグブランドではできない経験が、サントリーの新ブランド作りを通じて体験できるから一緒に楽しもうと、メンバーだけでなく他の部署の人にも一緒にお店を回りながら伝えています。

こうした気持ちを周りに伝えていく上で、日本での「BOSS」の経験とその直後のインドネシアでの経験が生きていると思います。「BOSS」はサントリーの中で一番大きいブランドです。ある程度やりたいことはできるものです。「BOSS」が、こけるわけにはいかないということで、関連部署のメンバーも頑張ってくれます。そうした恵まれた環境もあり、「クラフトボス」というペットボトルタイプのコーヒーのローンチを手がけて、爆発的なヒットを経験することもできました。

ただ、その後インドネシアに行くと、日本人マーケターは私1人で、どうやっていいかわからない、聞く人もいない、という状況になりました。何から手を付けていいかわからなくて、本当に大変でした。ただそうした中でも「誰も知らない商品を少しずつ大きくする」という面白さに気づいて取り組むことができたのです。この経験を生かして、小さくても新しくて前例のないものを面白がれるチームにしていきたいと考えています。

タイに赴任する前に、タイ人はなかなか本音を言ってくれなくてコミュニケーションが難しいという話を聞いていました。そのため少し気構えていたのですが、これまで気になることはありませんでした。日本人の私としても、誰にでも本音を話すことはないわけですから、本音と建前は普通のことだと思います。ですから例えば会議での発言をそのまま鵜呑みにはせず、後からフォローして聞いたりしていますが、それは日本でも同じだと思います。それよりも、今自分たちが進めていることの目的は何で、目指しているのは何で、ゴールは何で、どうなったら良い評価が得られるということをはっきり示すことに気をつけています。目的と評価をクリアに示せば、みんな自ずと頑張ってくれます。

—コロナ禍での異動と新商品ローンチを経験されましたが、コロナでかえって良かったと感じることはありますか?

オンラインでの調査は意外にいいなと思っています。もともとフェイストゥフェイスの現場が好きなタイプなので、本来なら赴任後まもない私は各地を回ってお客様の声を直接聞きたいのですが、それができないので仕方なくリモートで地方都市も含めたタイのお客様とつないで話を聞く時間を作っています。いざ始めてみて、リモートでもなんとかなるなと感じています。あちこち行かなくてよいので移動時間を浮かすことができ、その時間をよりたくさんの人の話を聞くことにあてられるようになりました。

例えば、先日タイの最北部、ラオスとの国境沿いに住んでいるお客様の話を聞くことができました。話してみたらタイの文字が読めない方でした。タイの識字率は94%程度とのことなので、6%にあたる人の話を聞くことができたわけです。そしてその人が近所のTTで「TEA+」を買って飲んでくれていました。私たちはマスブランドになりたいと思っていますので、こうしたお客様の話を聞きながら、こうした方に届く活動をしていかないといけないと感じました。例えば店頭はTTの方がマスマーケットです。MTでどれだけ頑張ってもTTのお客様にはなかなか届きません。日本人の私たちにとってはMTの方が自分の周りにもあるし想像もしやすいものです。商談もしやすいものです。一方TTは1件ずつ訪問しないといけません。しかしマスのお客様はそこにいるわけですので、TTにしっかり商品を届け、識字の難しいお客様にも届くくらい強いメッセージを展開していきたいと思います。こうした気づきを得られる機会が、リモートによってたくさん得られているのは良いと感じています。

【オンライン“訪問”を終えて】

海外で働くことは、大変なことも多く、孤独でつらいこともあるとしながらも、それでもやりがいを感じるのは、ブランドアウェアネスゼロからブランドを創る体験ができることと川口さんは話します。サントリーといえども、海外ではまだまだ小さい存在のようで、サントリーブランドを海外に広げていく時に必要とされる人材になっていきたいとおっしゃっていました。そんな川口さんは、日本にいる頃からサーフィンをやられているようで、インドネシア駐在中は人生最大の楽しみとしてバリ島まで行ってサーフィンをされていました。しかし今はコロナでバリ島には行けないので、早くバリ島でサーフィンができる日を心待ちにしながら筋トレして待機する毎日を過ごされているようです。また、日本のお笑い好きでもあり、イチ推しのお笑いコンビは「さすらいラビー」とのことです。

玉井博久

広告会社側(リクルート、TUGBOAT)のクリエイティブと、広告主側(グリコ)のブランド構築の両方の経験を生かして、デジタルを活用した顧客体験(CX)を手掛けカンヌライオンズなど受賞多数。著書に『宣伝担当者バイブル』(宣伝会議)、『「売り方」のオンラインシフト』(翔泳社)。2015年より5年連続シリコンバレーに、2018年より3年連続CESに、深圳、イスラエル、また米中のテックジャイアント本社に足を運び最新のデジタルテクノロジーを視察。得られた知見をマーケティング、Eコマース、コンテンツプロデュースに活用。シンガポールにてASEANのECビジネスを2年で10倍以上拡大させる。2012年より日本のポッキーの、2016年より全世界のポッキーの広告を統括。ポッキーは2020年に世界売上No.1*として、ギネス世界記録™認定。

*タイトル:最大のチョコレートコーティングされたビスケットブランド/2019年 年間世界売上高 推計$589,900,000 (国際市場調査データによる)
国際市場調査のデータ分類上、クリームでコーティングされたビスケットも含まれる

 

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