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広報の進化が企業にイノベーションをもたらす【後編】

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企業の経営資源の内「ヒト」に注目が集まり、従業員の変革が求められる中で、広報担当者にできることとは。前編では、これまでの日本企業の経営の在り方を振り返り、イノベーションを阻害する要因について考えてきました。後編では、ヒトに変革をもたらし、イノベーションの連鎖を生み出す方法と、広報の役割について、矢野健一氏が考えを述べます。

※本記事の内容は月刊『広報会議』7月号(6月1日発売)の掲載記事に加筆しています。
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広報の進化が企業にイノベーションをもたらす【前編】

矢野健一氏

矢野健一氏

『ピープル・ファースト戦略』著者
D&Fクリエイツ代表

ヒトのマインドが変わる時とは?

前編では、日本企業に今イノベーションが求められており、そのためにヒトの変革が必要である理由をお話しました。
では、我々はどうしたらヒトに変革をもたらし、イノベーションの連鎖を生み出すことができるのでしょうか?

それには従業員が喜ぶ施策はもちろんですが、同時に顧客が喜び、企業が喜ぶ、まさに三方良しのイノベーションが有効です。その三方をつなぐのが今の時代のバズワードにもなっている「パーパス」「ビジョン」「バリュー」になります。このパーパスやバリューはもちろん企業にとって重要なものなのですが、これを従業員にも喜ばれるものにするにはどうしたらよいか、そして顧客にとっても喜ばれるものにするにはどうしらたよいかを考えて実行していくのです。

これがパーパスやバリューを社内外に浸透させていくという真の意味です。それを実現するひとつの方法論として、企業や商品と合わせて従業員もブランディングすることで新しい顧客体験を生み出す「三位一体ブランディング」手法を、拙著『ピープル・ファースト戦略』の中でも提唱しましたが、それは簡単にいうと従業員体験(Employee Experiences(EX))を顧客体験(Customer Experience(CX))とクロスオーバーさせて、商品と従業員に同時に付加価値を与えることでビジネス業績と従業員の誇りとやりがいを双方引き上げる戦略になります。

例えば、価格競争での店舗運営をやめて、ホスピタリティ重視への変革に舵を切った企業の従業員が接客を続けている中で「あなたがいるからこのお店に来るのよ」と顧客から言われることが多くなってお店が繁盛すると、顧客だけでなくいずれは企業からも称賛されるようになります。

そうなるとその人は自分の行動に自信を持ち、増々自らホスピタリティ向上に精進していくようになるでしょう。従業員は業績が向上する、つまり企業と顧客から評価される中でその価値観や行動が評価される体験をすると自分事にしやすく、マインドセットを変えやすくなります。このように、ヒトのマインドを変革するには、顧客満足と従業員満足を同時に生み出す仕掛けが必要なのです。

企業の変革を支えるマーケティングと広報

顧客満足と従業員満足を同時に生み出すには、人の心を動かすマーケター発想が必要です。
それはすなわち、顧客や従業員の現状の知覚(パーセプション)を理解し、どんなメッセージをどんな物語(ナラティブ)で体験させると、彼らの知覚が変わっていくのかを戦略的に考えていく力です。先ほどの店舗の例でいうと、「値段をあげて大丈夫なのかな?」と不安になっている従業員を「地域を愛しているスタッフ」へと変貌させ、「地域を愛しているスタッフ」がおもてなしをするお店での顧客体験を用意してあげることで、地域でもっとも安いお店から、地域にもっとも愛されるお店として業績をあげていく。その中で生まれる顧客満足と従業員満足を戦略的にデザインしていくのです。

このような発想で、社内外に三方良しの空気感を作り出せるのはマーケティング部と広報・PR部しかいません。この時、顧客満足につながる空気感はマーケティングが作り、従業員満足につながる空気感は広報・PRが作り出す体制が取れるとベストです。
企業の変革やイノベーションにはこの2つの空気感の醸成が必須であり、どちらかが欠けても、人が動かずイノベーションは失敗するでしょう。ヒトのマインドを変える企業変革をリードしていく時に、この2部門が重要な役割を担うことは間違いありません。

広報に求められる新しい役割

顧客満足と従業員満足を同時に生み出す空気感を作り出すには従来の広報・PRの発想では不十分です。ピープル・ファーストの時代の広報には、「公共(Public)」とのネットワークだけでなく、「組織内部(Internal)」とのネットワークが求められてきます。そしてそれは物理的な人とのネットワーク構築ではなく、社内外にうごめくマインドのネットワークの理解がなければ意味がありません。

企業、従業員、顧客、メディア、世論、これらのマインドが現状どうなっていて、どうつなげていくと狙った顧客満足と従業員満足が同時に生み出されるのか?このMR(Mind Relations)とでもいうべき役割こそがこれからの組織の進化を促すイノベーションに必須となってきます。

それは、以前から広報の役割として認識され、ときに一方通行になりがちな「発信」から、「マインドをつなげて共感を作る」という大きな進化を必要とします(図)。

図 「発信」のみの広報から「Mind Relations」を担う広報へ

そして、どれだけ露出したのかという量の評価から、どれだけの人(のパーセプション)が変化したのかという質への進化を意味します。
企業の変革が進むピープル・ファーストの時代では、広報はMRという進化を経て、マーケティングと二人三脚で三方良しの共感を生み出す役割を担っていきます。そして、その三方良しの共感を生み出す力は、現在なかなかうまくいかないCSRやSDGsなどに代表されるソーシャルグッドのビジネス化を大きく前進させる駆動輪にもなっていくでしょう。

広報の進化がイノベーションを生み出し、ピープル・ファーストの戦略で企業を再活性化させ、共感・共存を実現するビジネスモデル構築の旗振り役となっていくのです。

『広報会議』7月号(6月1日発売)のご購入はこちらから

『ピープル・ファースト戦略「企業」「商品」「従業員」 三位一体ブランディング』
著者/矢野健一 発行所/宣伝会議

 

月刊『広報会議』7月号では、「社内コミュニケーション」をテーマに特集を組みました。「人への投資」や、それに伴う情報開示に関心が集まる昨今。新たな試みにより、方針や制度が生まれる時こそ、社内でのコミュニケーションは重要になります。
特集では各社の事例をもとに、今、広報部門に期待されているコミュニケーションの力を探ります。


 

第1部
「社内コミュニケーション」従業員が参画したくなる伝え方

ヤマハ発動機/ロート製薬/freeeなど

第2部
広報の業務効率化から新アイデア発想まで

生成AIの使い方と注意事項