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生成AIの台頭でクリエイターの仕事に起きる「変革の5つの波」とは?

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英・ロンドンにて2023年6月8日~9日(現地時間)の2日間にわたり開催された「Adobe Summit EMEA2023」。マーケティング、デジタルエクスペリエンスをテーマに世界中からマーケターやデジタル担当が集まった、本イベントを現地からレポートする。

写真 イベント Adobe Summit EMEA2023
Adobe 最高戦略責任者兼デザイン&新製品担当エグゼクティブバイスプレジデントであるScott Belsky氏は、ChatGPTが2か月で1億人を超えるユーザーの獲得に成功するなど、今後AIの急速な浸透が進むと説明した。

「Adobe Summit EMEA 2023」の2日目もキーノートからスタートした。キーノートのテーマのひとつが「クリエイターの業務に生成AIを導入した際に起こる変化」で、Adobe 最高戦略責任者兼デザイン&新製品担当エグゼクティブバイスプレジデントであるScott Belsky氏とAdobe マーケティング戦略およびコミュニケーション担当副社長のStacy Martinet氏が登壇した。

Scott Belsky氏は「ChatGPTが2か月で1億人を超えるユーザーの獲得に成功したが、これからもAIの急速な浸透は進んでいく」と見通しを示した上で、広告をはじめとするコンテンツ制作のワークフローにおいても、AIの台頭で「変革の5つの波」が来ると指摘した。それに伴いクリエイターの役割も変化するという。


写真 イベント Adobe Summit EMEA2023
「生成AIは人間にとって代わるのか、あるいは人間の潜在能力を引き出す存在になるのか」という問いについて説明するScott Belsky氏

① Creativity is new productivity(クリエイティビティは新しい生産性になる)
クリエイターは、これまでの“生産性”を高めることから、“創造性”を高めることへと集中すべき意識を変える必要がある。アイデアの実行や検証の過程で発生する反復的な習慣化した業務こそ、“副操縦士”であるAIが得意とする分野。ブランドが語るべきストーリーを創造し、チーム内の合意形成を促し、組織で新しいアイデアを実行するリーダーとしての力が、今後ますます求められる。

② Creative confidence is growing(創造力への自信が向上している)
クリエイティブツールを使うには、以前は専門知識が必要であり、排他的な側面があった。しかしAIを搭載するクリエイティブツールは、誰もがスキルや知識に関係なく自身のストーリーを形にし、編集、共有することができる。自身の専門分野以外でグラフィックや映像、3Dモデリングなど、多様なコンテンツの制作を自分で行うことができるようになる。

③ The opportunity for creative exploration is expanding(クリエイティブの探求機会が広がっている)
クリエイターがより多くのアイデアの可能性を発見・検証するためには、時間が必要だ。AIは作業の効率化によりクリエイターに時間を与え、アイデアの方向性の表面積を100倍以上に広げる。ブレイクスルーの機会を拡張するのだ。

④ The future of every digital experience will be personalized(あらゆるデジタル体験の未来は、超パーソナライズ化される)
AIの活用によって顧客一人ひとりに高度にパーソナライズされたデジタル体験の提供が実現する。これを可能にするためには、ファーストパーティデータの活用が重要になる。顧客の行動、インサイトを一元管理し、クリエイターはこの情報を着想点として顧客の関心に沿ったアイデアを発想することができる。

⑤ We will all crave story, craft, and meaning more than ever(これまで以上にストーリーやクラフト、意味を創造していく)
ニューヨークを拠点とする映画監督 ケイシーナスダック氏は、Chat GPTによってつくられた台本をもとに映画を撮影したところ、魂がなく、直感に反するエッジがなく、感情もない映画ができ上がったという。クリエイターが本当に人を動かすストーリーを生み出すためには、痛みやトラウマ、プロセスに自ら触れなければならない。

加えて今後、多くのクリエイターの間で「生成AIは人間にとって代わるのか、あるいは人間の潜在能力を引き出す存在になるのか」が議論になるであろうと言及した。その上でScott Belsky氏は「意味やストーリーを与え、人々を夢中にさせる体験づくりは人間にしかできない。ストーリーテリング、目的設定、信頼性といった優れたコミュニケーションの核となる設計にこそ時間を使い、副操縦士として生成AIを活用するべきだ」と自身の考えを明かした。

同じくキーノートに登壇したAdobe マーケティング戦略およびコミュニケーション担当副社長のStacy Martinet氏は、これらの変化を踏まえ、マーケティングの手法においても2つの型への変化があると指摘する。「ストーリー主導型マーケティング」と「ソーシャルファースト型マーケティング」だ。


写真 イベント Adobe Summit EMEA2023
「Story-Led Marketing」と「Social-First Marketing」について説明するAdobe マーケティング戦略およびコミュニケーション担当副社長Stacy Martinet氏

「ストーリー主導型マーケティング」は、短期的な売上に焦点を当てた単発のコミュニケーションからよりパーソナライズされた目的に沿ったストーリー性のあるコンテンツ生成、配信で顧客を獲得する手法だ。クリエイターはブランドが提供する価値を明確に定義した上で、顧客の行動変容を促すストーリー性のあるコミュニケーションを立案する能力がより求められるという。

次に「ソーシャルファースト型マーケティング」は、企業側から一方的に発信するコミュニケーションから、対話、フィードバック、顧客インサイトにこたえてコンテンツの出し分ける手法であると説明する。ここでは、情報、興味を中心につながろうとする人間の欲求を利用した、反応したくなるコミュニケーションがカギになるという。これについてStacy Martinet氏は、具体事例を交えて下記のように説明する。

「ただコンテンツをSNSに投稿するだけでなく、コンテンツ自体がソーシャルワークする(コメントが集まる、会話が生まれる、コミュニティが生まれるなど)必要がある。具体的には、SNSで最も話題となったAdobe Photoshopの広告のひとつが、写真から元カレを簡単に消す方法、という事例だ。多くのユーザーにシェアされ、コメントされる結果となった。」(Stacy Martinet氏)

今後についてScott Belsky氏は、生成AIはクリエイターから仕事を奪うどころか、よりクリエイターがもつ創造性、感性を際立たせることにつながると結論付けた。Adobeはクリエイターの副操縦士としてのAI開発を今後一層注力する考えだ。

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