月刊『ブレーン』2023年9月号では、総勢31人のクリエイターたちの回答から、注目の事例やキーワードを抽出して掲載。詳細はこちらからご覧ください。
〈回答者〉
電通 統括執行役員/チーフ・クリエーティブ・オフィサー 佐々木康晴氏。
――2023年に結果が発表された国際広告関連アワードの入賞作またはエントリー作品の中で、特に注目した事例は。
Heineken「The Closer」
(LePub(Publicis Italy))
カンヌライオンズ:ブレンドエクスペリエンス&アクティベーション部門ゴールド
なんの役にも立たない、イノベーティブな栓抜き。でもみんなの心が救われる。そしてとっても「ハイネケン」らしい。こういうアイデアをチームの仲間たちと、そしてクライアントの皆さんと、大笑いしながら共創したい。
NotMilk「We Didn’t Write This Campaign」
(MRM Worldwide)
カンヌライオンズ プリント&パブリッシング部門ゴールド
最近、ソーシャルメディアを見ても、街を歩いていても、テレビをつけても、なんだかみんなモメている。怒っている。このキャンペーンはそんな時代性を気持ちよくひっくり返していて良い。でも美味しくはなさそう…。
Chipotle「Chipotle Doppelgänger」
(GALE)
カンヌライオンズ クリエイティブデータ部門ゴールド
この業界はもっとデータドリブンになるべき。しかし今のデータドリブンなキャンペーンは効率ばかり追い求めるつまらないものも多い。その中で、この事例はちょっと気持ちがソワソワするデータを使っていて、良い。
――各賞のセミナーやセッションの中で、特に記憶に残ったものやその内容を教えてください。
弊社の案件にて恐縮ですが……今年のカンヌライオンズで、長久允監督・プロデュースによる「Voice of Creativity」というミュージカル形式のセミナーを行いました。
Voiceとは、意志や愛や熱みたいなもの。これからのつくり手はVoiceを持つことが何より重要。Voiceがあるから、AIにはつくりだせないオリジナルな、人に強く作用するアウトプットが生まれる。他のセミナーはAI側の話だらけでしたが、その2023年に「人」側の話ができたのは良かったかも、と思っています。ぜひチャンスがあったら再演したいです。
――生成AIに関して審査の過程や現地で話題になったこと、ご自身が注目されていることは。また、今後クリエイターと生成AIの関係はどのようになると考えますか。
今年のカンヌでは「AIは敵ではなく共創のツール」ということが多く語られていましたね。電通グループでは、インサイト発掘、コピー創造、広告効果予測、改善提案、顧客対応など、いくつかの領域において生成AIをはじめとする各種AIが実用段階になっています。
AIがやると良い領域、人とAIがコラボすると良い領域、人がやったほうが良い領域、が見えつつあるなかで、何より僕らクリエイターは「とことん人中心に、一見無駄に思えるような、人間くさいことを考え続ける」のが大事なのだと感じています。
――広告クリエイティブに関連して今注目するキーワードは。
「愛と熱」
急に何を言いだすのか!?と思われるかもですが。AI時代において、人間にしか持てない愛と熱がとても大事。カンヌ受賞のどのプロジェクトも、難易度が極めて高く、誰かの強い愛と熱があったから実現できたのだと思います。
「人々の力」
これは数年前から続く傾向ですが、企業の成長と社会変革を実現するキーとなるのが、人々が潜在的に持つ力。多くの入賞作が、人々の感情を巧みに揺さぶって、人々の生むエネルギーによって大きな変革を成し遂げています。
「Creative Social Transformation」
年々増え続ける深刻な社会課題。カンヌ受賞作の6割が社会課題をテーマとしていました。課題は大きく、正面から向かっても解けない。だから今こそCreative Social Transformation。クリエイティブの力が世界中で必要とされています。
月刊『ブレーン』2023年9月号
【特集】AIの民主化で際立つ
人間・文化の視点
世界のクリエイティブ
- ▼31人のクリエイターに聞く海外アワード2023
- ・時代を映す注目事例と
- キーワード
- ・海外アワードに見る
- AIとの共創の可能性
- 〈回答者〉(五十音順)浅井雅也、阿部光史、荒井信洋、石井義樹、石川俊祐、石原 和、泉家亮太、井口 理、岩崎亜矢、岡村雅子、小川信樹、小田健児、金箱洋世、木村健太郎、窪田新、小山真実、佐々木康晴、嶋浩一郎、杉山元規、鈴木佳之、関谷アネーロ拓巳、多賀谷昌徳、田中直基、谷脇太郎、張ズンズン、出村光世、中島琢郎、萩原幸也、平井孝昌、細田高広、松宮聖也
- ▼AI 活用の前に理解しておきたい
- 国・地域で異なる「文化的価値観」
- (文:渡邉 寧)
- ▼審査員と応募者
- 双方の視点からひも解く
- 企画の見方
- (八木義博)
- ▼海外アワード2023
- 日本の受賞作品
- ▼ヤングカンヌレビュー
- 受賞へのあと「一歩」は?
「海外アワード2023 時代を映す注目トピックとAI時代のクリエイティブ」バックナンバー
- 分断の時代に求められる広告の役割は? 嶋浩一郎氏が見た海外広告賞2023(2023/9/19)
- リクルート 萩原幸也氏が見た海外広告賞「事業会社にもクリエイティビティを」(2023/8/31)
- 「誇張されたAI活用事例は見抜かれる」(The One Show審査員 AOI Pro. 鈴木佳之氏)(2023/8/30)
- Apple最強説? 2023年の海外広告賞を読み解く(電通 岡村雅子氏)(2023/8/29)
- 「DE&I」の基準の更新が求められている――中島琢郎氏に聞く海外アワード2023(2023/8/24)
- 分散するオーディエンスとどう向き合う?――井口理氏に聞く海外アワード2023(2023/8/16)
- Supercharging Creativityへの流れ――出村光世氏に聞く海外アワード2023(2023/8/14)
- デジタルと人間の関係性をどうデザインするか―石川俊祐氏に聞く海外アワード2023(2023/8/10)
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