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世界が絶賛するクリエイティブは、どのように生まれるのか?-TBWAが掲げる7つのルール-

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9月に発表されたCampaign Brief Asiaのトップクリエイティブランキングで、日本人クリエイターのトップ10のうち、1位と2位を含む過半数をTBWA\HAKUHODOの若手メンバーが占めた。同社はカンヌでは「ホタメット」で日本初となるイノベーション部門でのゴールドを始め、ニューヨークフェスティバルのグランプリ、MAD STARでのグランプリ・オブ・ザ・イヤー(年間最高賞)獲得と快進撃を続けている。また国内ではマクドナルドの「青いマックの日」がチャリティとハッピーセットの販売促進を両立し、JPMのプロモーショナル・マーケティング大賞に輝いた。ビッグブランドのマーケティング成功例を次から次へと生み出しながら、世界にも評価されるTBWA。そのクリエイティブはいかにして生まれるのか。同社のチーフ・クリエイティブ・オフィサー、細田高広氏に聞いた。

*Japan’s most awarded creative 2023

「なぜ日本でも世界でも注目されるクリエイティブがつくれるのか?」

この問いをいただけること自体、実に光栄なことです。日本と世界、クリエイティブ品質とマーケティング成果、どちらかではなく「どちらも」高い次元で叶えることを、私たちは悪戦苦闘しながらずっと目指してきました。この「ずっと」は私が入社するより前にまで遡ります。TBWA\HAKUHODOは世界的なクリエイティブ・コレクティブのTBWAと博報堂の合弁会社として2006年に誕生しました。当初は異なる企業文化の衝突(と言う名の喧嘩)も少なくありませんでしたが、時間をかけてカルチャーを融合させ、独自の方法論を編み出してきたのです。私自身はそのバトンを受け取って必死で走っているにすぎません。本稿ではその中でも特徴的な思考や行動を「7つのルール」として紹介しましょう。

1. まず壊す。次につくる。 – Disruption® という方法論。

TBWAは90年代からDisruption®という言葉で自らの方法論を体系化してきました。日本語では「創造的破壊」と翻訳されます。つくる会社なのに「破壊」という言葉を掲げるなんて不思議に思われるかもしれません。しかしながら商品でも、建築でも、芸術でも真に価値ある新しいものは、過去を否定するかたちで登場するものです。

私たちの仕事は、人が無意識のレベルで囚われている「常識」や「バイアス」を特定し、それを壊すためにアイデアを考えるという手順をとります。特に注目するのは「仕方がない」とか「そういうものだ」という思考パターンです。例えば、今年のカンヌで金賞を受賞し話題になった「ホタメット」。ホタテの貝殻をアップサイクルしてつくられたヘルメットですが、このプロジェクトは「廃棄貝殻はゴミである」という誰も疑いもしなかった前提を疑い、むしろ希少資源にできないか?と未来を妄想したところから始まっています(1)。

破壊するものを特定することで、創造するべきものを明確にする。それが私たちのプランニングの土台になっているのです。

HOTAMET / Koshi Chemical Industry
(1) HOTAMET / Koshi Chemical Industry

2. マーケットだけじゃない。カルチャーに影響すること。

どれほど破壊的なアイデアでも、世の中で受け入れられなくては意味がありません。次に大切なのはカルチャーへの眼差しです。

通常、マーケティングとは、その名の通り「市場」を分析して戦略や表現を考えることを意味します。けれど生活者は市場の中で暮らしているわけではありませんよね。普通に暮らしていれば、視野の中にはあらゆるカルチャーの現象が次から次へと飛び込んできます。映画、アニメ、漫画、音楽。その中でブランドに振り向いてもらい、愛してもらわなくてはならない。ですから市場よりも広い意味での文化を理解している必要があるわけです。

2016年にスタートした日産のTech For Lifeは、長く続けていて思い入れのあるプロジェクトのひとつです。当時、自動運転技術はずっと先の技術だと思われていました。未来の技術を、日常の話題にする。そのために自動車の技術を生活に転用し、デモンストレーションすることを思いついたのです。最初に手掛けたのは自動で定位置に戻るようにしたオフィスチェア。これが世界的な話題となりました。以来、自動で収納される「スリッパ」や必ずホールインワンできる「ゴルフボール」など様々な取り組みを発信し続けています。結果、硬派な経済ニュースはもちろん、バラエティ番組や世界各国のカルチャーメディアでも取り上げられ注目されるようになりました。

2022年には、NBA JAPAN GAME 2022に合わせて自動でフロアを掃除するモップ “ProPILOT MOP”をローンチ。スタジアムのお客さんたちが、その様子をタイムラインに上げてくださり、瞬く間に世界に広がりました(2)。

ProPILOT MOP / NISSAN
(2) ProPILOT MOP / NISSAN

マクドナルドのZ世代マッククルー募集キャンペーンでは「あのちゃん」こと、アーティストのanoさんとコラボレーションしたミュージックビデオを発表しました。スマイル0円で有名なマクドナルドが「スマイルあげない」と歌う歌詞は多様な個性を許容するマクドナルドの懐の深さを伝え、多くの共感を集めています(3)。こちらの仕事も、広告というよりもカルチャーコンテンツとして受容されました。

YouTubeチャネルや番組や新型コンテンツ。私たちの仕事は「広告会社が関わっていたんだ」と後から驚かれるものが少なくありません。これからも広告の代理にとどまらず、様々な興味深い文化現象の黒子でありたいと考えています。

考えて終わらない。つくるにこだわる。
(3)

3. 考えて終わらない。つくるにこだわる。

突然ですが、皆さんは広告制作物のことをなんと呼ぶでしょうか。作品?仕事?案件?TBWAの場合は世界中で「プロダクト」という無骨な言葉を使います。それは自分たちを、サービス業ではなく、製造業だと定義しているからです。

それがCMであっても、コンテンツであっても、体験であっても私たちが生み出すのはプロダクトです。近頃の広告はメディアやAI活用など裏側の仕組みばかりが語られがちですが、生活者と向き合う最後の局面で、人の気持ちを動かせなくては意味がありません。結局はプロダクトの「品質」がモノを言う。

ならば社内に世界最高水準の「つくる場」が必要ではないか?という考えから2019年にはDiscoというコンテンツスタジオを立ち上げました。企画・脚本・撮影・編集・CGの全工程をひと通り製作できるようになっています。ここではCMやミュージックビデオはもちろん、テレビ番組、映画、YouTubeチャネルなど様々なコンテンツの製作を担います。

直近ではNHKの「おかえり音楽室」の企画、脚本、演出から仕上げまでをDiscoで手掛け、想像を超えて多くの反響を得ました(4)。Discoを活用してCMプランナーやコピーライターから脚本家や作家へとキャリアを広げるメンバーも増えています。今後、既存フォーマットのコンテンツだけでなく、新しいコンテンツのフォーマットそのものをつくることを目指します。

おかえり音楽室 / NHK
(4) おかえり音楽室 / NHK

4. ブランドは体験のすべてがつくるもの。

私たちが「つくる」ものは、もちろん映像やグラフィックだけではありません。生活者がブランドとの絆を感じる瞬間は、無限に広がっています。日常的に使うアプリの痒いところに手が届く快適さ、馴染みの店員さんとの弾む会話、ユーザーコミュニティの熱狂。体験こそがブランドをつくる時代になっているのです。当然、ブランドはユーザーにとって意味のある一連の体験として設計されなくてはいけません(5)。もちろん最重要体験のひとつとして、テレビや新聞も含まれますが、より広く生活者とブランドの接点を編集する必要があるでしょう。

TBWAが目指すDisruptive Brand Experienceの概念図
(5) TBWAが目指すDisruptive Brand Experienceの概念図

そのためにチームにはインタラクション、空間デザイン、体験設計などさまざまなプロフェッショナルが所属しています。2020年に期間限定で横浜にオープンしたNISSAN PAVILLIONには、そのすべての力を結集しました(6)。没入参加型映像イベントや、デジタルインタラクションに加え、EVのバッテリーに蓄電されたエネルギーを使って調理しカフェで振る舞うなど、総合的な体験でブランドの思い描く未来を深く伝えたのです。11月にはJAPAN MOBILITY SHOWも開催されますが、ここでも新たな挑戦が盛り込まれています。こうしたビッグイベントで培ったノウハウやスキルが、365日のブランド体験づくりに生かされていくのです。

NISSAN PAVILLION / NISSAN
(6) NISSAN PAVILLION / NISSAN

5. 日本だけじゃない。世界が驚くアイデアか。

今年はたまたま海外広告祭での受賞に恵まれましたが、私たちはそもそもアワードの獲得自体を目的にすることはありません。何より大切なのはDisruption®でブランドを徹底的に成長させること。ただし、その仕事が戦略・発想・クラフトの視点から世界に通用するレベルにあるか、世界の手本になれるものかどうかは常に意識しています。ここでTBWAのグローバルネットワークが活きてくるのです。

TBWAは、各国オフィスの距離が近く仲が良いことで知られているクリエイティブ・コレクティブです。アジア地域では毎月、互いのオフィスのプロジェクトを共有し、意見交換します。また年に2回ほど世界中のクリエイティブリーダーがひとつの都市に集まって3日間、プロダクトだけを徹底的に議論する機会もあります。当然、賞賛もあれば遠慮のないダメ出しもある。けれど、ここで得た最先端の知見やアドバイスが私たちのプロダクトの品質向上につながっているのは間違いありません。

また世界のどこかでグローバルな知見が必要なときには「SWAT」が召集されます。ホスト国に世界中からクリエイティブチームが派遣され、1〜2週間で集中的にアイデアを開発するという仕組みです。コロナ禍でいちどは中断していましたが、他のオフィスへの交換留学も2023年度から再始動させます。

こうした機会を通して、グローバル感覚を持ったクリエイターを日本から育てることも私たちのひとつの使命です。いま多くの起業家や経営者たちが市場の縮小し始めた日本を飛び出し、世界を目指そうとしています。日本と世界を理解してクリエイティブに落とし込める人材がもっともっと必要になるに違いないなのです。

6. クリエイターは全員、起業家であれ。

もちろん、起業家をサポートするだけでは不十分。クリエイターにも「起業家精神」が必要です。AIは「あなたは何をしたいの?」という問いには答えられません。これからの時代、自ら問いを立てる行為こそが最も価値のある創造的仕事になるでしょう。意志を持つ人材は、あらゆる方法で応援されなくてはなりません。

例えばTH For Goodという制度があります。そのプランが「社会に意味ある変化をつくる」ものだと認定されるならば、プロジェクトを自ら立ち上げるために最低限必要となる資金を提供する、というものです。このTH for GOODから生まれたプロダクトやサービスの中には、他企業の協力を得て、大きなビジネスに育とうとしているものがあります。

課題が与えられるのを待つだけではなく、自らの問題意識に突き動かされて行動する。制作者にはいま、起業家精神が求められているのです。

7. 社会に意味ある変化をつくる。

最後に私たちは何のためにクリエイティブを続けるのか、という根源的な理由について説明して締めくくることにしましょう。端的に言うならば私たちは「この社会に意味ある変化をつくる」ために存在します。いま、国よりも企業という単位の方がはるかに効率良く社会を変えられる領域があると思うのです。よりスピーディに、柔軟に、また貪欲に行動できますから。

例えば「アルバイトを増やす」というようなお題を考えてみましょう。人口が減る社会では、若い世代にとって魅力的な職場になるように改善しなければならない。一方、シニア人材が活躍できるよう仕組みや環境を整えることも必要ですよね。こうして、企業が目的を果たそうとする行為は、社会を前よりもいい場所に変えていくことにつながるものです。

ことさら社会的正義を強調するような「ソーシャルグッド〜〜」や「パーパスドリブン〜〜」という言葉遣いは、個人的にあまり好きではありません。理念と利益を二項対立で考えることこそ、TBWAが忌み嫌うコンベンション(既存の枠組みから生まれる凡庸な思考)に他ならないと思うからです。

ブランドも社会も同時にいい方向に変える。ここにチームの創造性のすべてを注ぎ込みたい。事故や渋滞をなくす。長生きが楽しい場所にする。産業も自然も同時に守る。伝統技術を永遠に残す。新しいエネルギーの循環をつくる。私たちの身の回りは、Disruptionを待っている問題ばかりです。

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TBWA\HAKUHODO Disruption school

2023年11月24日から、TBWA\HAKUHODOのクリエイティブとストラテジーを講師とする第四期Disruption Schoolが開催されます。Disruption®という普遍的な方法論を体系的に身につけつつ、講師との対話やワークセッションなどを通じて、思考力・発想力・表現力を格上げするカリキュラム。受講生の平均評価は4,6ポイント(5点満点)で、最も満足度の高い講座のひとつです。

  • TBWA\HAKUHODO Disruption school 概要
  • ◯開講日:11月24日(金)19:00-21:00
  • ◯講義回数:全11回。毎週金曜開催
  • ◯開催形式:講師と受講生の密なコミュニケーションを生む教室開催
  • ◯定員:先着25名
  • 詳細・お申込はこちらから
  • 10月12日(木)には無料体験講座を開催!詳しくはこちら
細田高広氏

細田 高広氏
TBWA/HAKUHODO
Program Director | Chief Creative Officer

博報堂、TBWA/CHIAT/DAY(LA)を経て現職。事業ビジョンやコンセプトから、ブランドコミュニケーションまでを一貫して手がける。カンヌ金賞、NYADCグランプリ、Clioグランプリ、ACCグランプリ、クリエイターオブザイヤーなど国内外で受賞多数。アジアを代表する40歳以下の40人(40 UNDER 40)にも選出された。著書に「コンセプトの教科書」「未来は言葉でつくられる」(ダイヤモンド社)、「解決は1行」(三才ブックス)などがある。