「効率化」ではない生成AIの活用方法を検証
「ChatGPT」が考案したレシピを基に開発された「AIビール」が注目を集めている。クラフトビール専門店「ビビビ。」(東京・渋谷)で4月9日に販売開始。ブルワリーの「ミヤタビール」(東京・墨田)の過去のレシピやオーナーの哲学などをAIが学習し、100案のレシピを生成した。その中から厳選し、ミヤタビールの監修で完成。通常は使用されることが少ない「抹茶」を副原料として利用しており、これまでにないビールに仕上がったという。「ビビビ。」によると、通常は15リットルの樽を約1週間で売り切るが、今回は発売2日目で2本目の樽を追加オーダーするなど、異例のスピードで売れているという。
本企画は、企業の課題解決を図る編集会社「かくしごと」(東京・品川)の発案。生成AIの新たな活用方法を探るため「ビビビ。」やミヤタビールとの協業をスタートした。同社はコンセプト設計やAIディレクションを担当。限定販売で、約100リットル醸造した。
現在の生成AIは「効率化」目的で活用されることが多い中、今回の取り組みは「個性やストーリーが重要となる商品開発を、AIはサポートし得るのか」という点を実証する狙いもある。クラフトビールは名産品を副原料とする地域性や、生産者の思いなど、個性やストーリーを楽しむ側面があり、本企画を通じて生成AIの新たな可能性を探る考えだ。
「ミヤタビール」の13種類のレシピのほか、オーナーの宮田昭彦氏の哲学、ブルワリー周辺のロケーションなどをAIに学習させた。ビアスタイル、モルト、ホップ、酵母、副原料などの種類や配合量をAIが考え、100案の新レシピが誕生。その中から10~20種類をピックアップし、最終的にミヤタビールが一つの案を選択した。
ミヤタビールが選んだレシピはAIが最初に生成したものだったことから、「かくしごと」の黄孟志代表は「AI事業チームからは、『AIがミヤタビールの特徴や哲学を正しくとらえられていた証ではないか』と聞いている」と話す。
飲用者からは「おいしい」という声が上がったほか、副原料の正体にも関心を持ち、当てるためにしっかりと飲むといった楽しみ方も見られた。「ビビビ。」は「バリエーションの豊かさや副原料を楽しむクラフトビールの醍醐味が伝わった」と手ごたえを強調。同店は昨年9月にオープンしたばかりで、同施策を通じて認知拡大や集客などにつなげたい考えだ。
ミヤタビールは「自分からは出てこない新しいレシピのアイデアに出会ってみたかった」として本企画に参加。副原料に抹茶を使用した新レシピを選んだ理由について、オーナーの宮田氏は「これまで用いた経験がなく、チャレンジ意欲がわいた」としている。抹茶の成分が発酵を止めてしまう懸念もあったが、投入量を調整するなどの工夫で解決。「ホップのニュアンスと合わさって、面白い味になった」と話す。
黄代表はChatGPTの強みについて「短時間で大量の案を出せること」と話し、今回のようなレシピ開発にも役立つとしている。生成されたレシピ案にはミヤタビールが持つ個性やストーリー性が反映されており、効率化以外の文脈でもAIが有用であることを証明した。従来のビールの範囲を大きく逸脱しない味わいでありながら「遊び心のある副原料が効いている」とし、ビール愛好家だけでなく、クラフトビール初心者まで楽しんでほしい考えだ。
今後、各クラフトビールが持つストーリーをAIに学習させ、イメージキャラクターやBGMを作成する構想もあるという。黄代表は「味覚だけでなく、視覚や聴覚などでも楽しめるように店内の演出ができたら」と話す。「AIビール」を缶や瓶で販売することも検討しており、パッケージやWebデザインもAIで作成したいとしている。
「AIビール」はクラフトビール専門店「ビビビ。」のみで販売。価格はグラス1000円(税抜)、パイント1300円(同)。「ミヤタビール」は東京スカイツリー近くの酒類製造所で、クラフトビールだけでなく、シードルやラキヤなども製造している。
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