秋山晶さんに聞くコピーの裏側 第1回:コピーにおけるセンチメンタルについて、「ただ一度のものが、僕は好きだ。」、「ロンサム・カーボーイ」、「その先の日本へ。」他

近年、AIの登場により、広告コピーが新たな局面を迎えようとしています。広告会社では「コピーライター」という名刺を持つ人が減った、という声も聞きます。しかし、どんなに時代が変わろうと、コミュニケーションや表現の手法が変わろうと、広告コピーの基本は変わりません。だからこそ若い世代の皆さんに知っておいてほしいコピーがたくさんあります。
そこで本企画では、過去から現在にいたるまで、時代と共にあり、これからも「未来につないでいきたいコピー」について、制作者であるコピーライターの皆さんにお話を聞いていきます。
今回は、キユーピー、キヤノン、大塚製薬などの広告で知られる秋山晶さん(ライトパブリシティ)にインタビュー。第1回目は、「考えてみれば、人間も自然の一部なのだ。」(キユーピー)、「ただ一度のものが、僕は好きだ。」(キヤノン)、「ロンサム・カーボーイ」(パイオニア)など、名作コピーがどのように生まれたのかを聞きました。インタビュアーを務めたのは、ライトパブリシティのコピーライター 山根哲也さんです。

「自分が生まれるずっと前から地球にいた人の言葉」として書く

山根:実はこれまで秋山さんご自身から自作コピーの話をきちんとお伺いする機会は、一度もありませんでした。

秋山:今回、こういう話をしようと思ったのは、山根くんが聞き手になってくれたからです。振り返ってみると、僕はちょうどあなたぐらいの年齢の時に、一番いいコピーを書いたんじゃないかと思うんです。周りの状況を見て考えたのではなく、水を飲んで、外を見たらスーッと飛行機が降りてきた、みたいな感じで自然にコピーを書いていました。そういう意味でも、いま最前線に立つ山根くんと、今日はコピーの話をしてみたいと思いました。

山根:ありがとうございます。それでは最初に、1972年のキユーピーのコピー「『考えてみれば、人間も自然の一部なのだ。』」からお願いします。

「考えてみれば、人間も自然の一部なのだ。」

クチに入れるものは自然のものが
いいのは当然です。
キユーピーマヨネーズは、着色料、乳化剤
などの添加物を使っていない
自然食品。さわやかです。
(中島董商店/1972年)

山根:これはなぜコピーにカギ括弧がついているんでしょうか?

秋山:これは、CMを展開していない新聞広告だけのコピーですね。コピーにカギ括弧がついている理由は、自分で書いたもののではあるけれど、”僕が生まれるずっと前から地球にいた人の言葉” のように感じたからですね。とても自分で書いたと思えないんでカギ括弧をつけたんです。

山根:カギ括弧の話者としては、誰か第三者なのか?もっと天の声のようなものだったのか?

秋山:第三者ですね。天の声というよりも、いかにも人間が言ったという表現です。

山根: 1970年代は、高度経済成長の影響で公害問題も出てきた時代です。このコピーの下には、「クチに入れるものは自然のものがいいのは当然です。キユーピーマヨネーズは添加物を使っていない自然食品。さわやかです。」と書かれている。これは今にも通ずるものがありますが、当時のムードだったんですか?

秋山:ムードというより、自然回帰のウェーブです。当時は、それが新しかったんですね。これを書いた時、僕は休暇でカナダのバンフ国立公園で横になって2時間ぐらい過ごしていたんですよ。そうしたら、眼の前をアリが歩いていてね。その時に「アリも自分も、自然の中のひとつなんだな」と思って書いたものなんです。

山根:このコピーは、キユーピー相談役だった中島雄一さんに提案されたのでしょうか。

秋山:そうですね。キユーピーのオーナーは、絵描きで言えば僕のパトロンのような存在で、もちろん意見をおっしゃるわけですね。意見を言わないから、それがいいコピーということではなく、むしろいいコピーの時に意見をおっしゃっていた。これまで一番意見を言われたコピーは「愛は食卓にある。」です。こちらが提出したコピーに対して、オーナーが反対意見を言う。僕がそれをどう論破するか、というやり取りでした。

山根:例えば、どんなことを言われるんですか?

秋山:このときは「食卓は、消滅する」と。

山根:それに対して、秋山さんは何とおっしゃったんですか?

秋山:「人間の記憶として、食卓は残る」ですね。

山根:なんだか、”神々の対話” みたいですね(笑)。ちなみに、「『考えてみれば、人間も自然の一部なのだ。』」、このコピーが世に出た時の反響は、どんな感じだったんですか?

秋山:競合の商品と比べて、キユーピーマヨネーズはピュアなんだと、ユーザーの中で意識が変わりました。

山根:商品のコンセプトや姿勢につながったんですね。

秋山:クライアントには言わなかったけれど、僕はキユーピーを「小さな会社」に見せたかったんです。実は巨大メーカーですが、ちゃんと気持ちと目が行き届いていて、手づくりに近い感覚で、機械をつかって製造しているメーカーなんだ、と。

山根:それはすごくよくわかります。ファクトリーでつくっているけれども、個人商店の感覚なんですよ、ということですね。

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