広告を作っている人は、何を「作っている」のか? を考える
松永:このシリーズ企画では「広告的発想ってこう使うんだ!会議」と題し、広告の世界の考え方って実は色んなところでもっと生かせるんじゃないか? というテーマを追求していきます。1回目のゲストは、コピーライターの考え方を多方面に生かしてらっしゃる方として、梅田悟司さんにお越しいただきました。
梅田:今日のテーマを聞いて、僕なりに考えていることをお話ししますと…「結局、広告を作っている人って、何を作っているの?」ということだと思っています。広告の制作者って、コピーライターであればコピーを、デザイナーであればグラフィックを作っているなどと思いがちなんですが、それは納品物です。その納品物の中に何を込めているのか、そのプロセスでどんなふうに作っているのかという話が実は大事で、それをどう、何に展開するのか?が今日の議論の中心になるのかなと思っています。
簡単に自己紹介をします。こんにちは。梅田悟司と申します。僕はコピーライターですと言っているものの、実際には学校(武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部)で教えていたり、ベンチャー支援もしていたりして、外から見ると何をやってるのかよくわからない人間だと思います。ただ、なぜそれができるのかは、僕自身はきちんと説明できます。
松永:というと?
梅田:つまり、本質的に何をしているのかは自分の中でブレていないということです。ここが「コピーライターが自分の伸びしろをどう伸ばしていくか」という今日のテーマにつながると思うんです。
コピーの職能は、三歩進んで二歩下がりながら伸びていく
松永:梅田さんのキャリアは、最初は広告会社から始まっているんですよね。
梅田:はい。広告会社でマーケティング、コピーライティング、クリエイティブディレクションなどをやっていました。その後、広告会社を卒業して、ベンチャー支援の領域に移ります。ベンチャーキャピタルで、経営支援・事業活動の支援などをして、そうこうしているうちに武蔵野大学で起業家を育てる学部を立ち上げるというので声をかけていただいて、学校の先生になりました。他にも「ココナラ」というスキルマーケットを運営する企業のベンチャー支援事業に、パートナーとして参画していたりもします。
松永:コピーライティングのお仕事は、いまもされているんですか?
梅田:いわゆるコピーライティングというよりも、いまはコンテンツのコミュニケーションを設計する仕事が多いです。例えばTBSの日曜劇場の『VIVANT』では、ドラマをどう世の中に広げていくのか、どう見せていくのかをディレクションしました。広告会社にいた時に、TBSのドラマ枠である日曜劇場の『99.9-刑事専門弁護士』のコミュニケーションを担当させていただいたことをきっかけに、こうした仕事が徐々に増えてきました。
コピーライティングというと、「キャッチコピーを書こう」という話に大体なりますが、僕は一番重要なコピーは実は名前だと思っているんです。ドラマにも、書籍にも名前、タイトルがありますよね。そこからコミュニケーションが始められるといいと、常日頃思っています。
僕、この辺りの仕事をしていた時に、実は谷山さんの『広告コピーってこう書くんだ!読本』からすごく学んだんですよ。
松永:お。そこであの本が出てくるんですか。
谷山雅計著『広告コピーってこう書くんだ!読本〈増補新版〉』
梅田:本の中に、「剣豪コピーと将軍コピー」って話がありますよね。僕、あのフレーズが好きなんです。当時自分が悩んでいたことを言語化してくれて、すごくすっきりした覚えがあります。
松永:谷山さんは、「剣豪コピー」をポスター1枚でも力を発揮する強いコピー、「将軍コピー」を大きなキャンペーンを束ねる力を持ったコピー、というふうに説明していますよね。
梅田:それです、それです。コピーって、いろんな人がいろんなことを言うじゃないですか。スライス・オブ・ライフ(日常の一場面を切り取って描く手法)がいいんだとか、商品の上に来るタグラインが大事だとか、日本中をドカンと沸かせるようなキャッチコピーこそ最高だとか。そういう話が山ほどある中で、それをどう区分するのか、どういう時に何のコピーが必要なのか、みたいなことに悩んでいた時期があって。
その時に「剣豪コピーと将軍コピー」フレーズがすごくしっくりきて。これで、自分がやってきたことを自分で整理できるじゃないかと。
松永:なるほど。
梅田:コピーの本って、僕もそれなりの冊数は読みましたけど、読んだからといって、その時点でコピーの書き方が全部わかるわけじゃないんですよね。とくにコピーを書き始めた駆け出しの頃なんかだと、わかったような気にはなるけど、本当のところまではわかっていないことがたくさんある。コピーを書いていくうちに理解できるようになってくるわけですが、ある程度書けるようになってきた頃に、またわからないことが増えてくるんですね(笑)。そういう、わかってきたようで本質的なところはまだつかめていない…という悩みを抱えていた頃に僕もあの本を読んだんですよ。すごく気づきが多かった本でしたね。
松永:梅田さんのなかでモヤッとしていた部分が本によって言語化されたということですね。
松永光弘氏
梅田:その側面はあると思います。職能って、ちょっとできるようになったと思ったら、振り出しに戻るようにわからなくなる。この繰り返しですよね。三歩進んで二歩下がりながら伸びていく。その、二歩下がった時に自分は何を学ぶべきなのか? 自分がなぜ今二歩下がっているのか? を理解する意味ですごく役立った覚えがあります。
松永:うれしいですね。担当編集者冥利に尽きるコメントです(笑)。でも、いまの話を聞いていると、あの本からはやっぱり、コピーの書き方だけでなく、コピーライティング的な発想というか、今回のテーマでもある広告的発想というか、そういうものが学べるんだなと思いました。実際、編集を担当した僕がそうだったんですよね。僕はコピーライターではなくて編集者ですが、2007年にあの本のオリジナル版を作らせていただいたことで、自分自身の企画の考え方がすごく変わりましたから。この本を読めば広告的発想を身につけることができるな、という実感は当時からありましたね。