「コピーライターで終わるか、『言葉の活動家』になるか」梅田悟司×松永光弘

言葉に関わることなら、全てがコピーライターの仕事の領域になる

松永:梅田さんはその広告的な発想でいろんな仕事を手がけられていますが、ひとことで言うと何をしていると思えばいいんですか?

梅田:最近は「企業と言葉に関するすべてを仕事にしている」と言っています。じゃあ、それは何なのか、ということをまとめたのがこの一覧です。

写真 トークイベントの様子

「経営に関する言葉の設計」は、代表的なのは、ミッション・ビジョン・バリューや、パーパスなどですね。あとは価値規定やブランドスローガンなどもそうです。そういうものを言葉として設計します。その次の「90分完結コピーライティング」は、ちょっと珍しいんですけど…、僕、コピーライティングは原則「その場書き」なんですよ。

松永:クライアントさんの目の前で即座に書くってことですよね? 最初に話を聞いたときはびっくりしましたよ。

梅田:90分間クライアントさんと話をする。終わった時に「これでどうですか」とコピーを出して、使うんだったらいくらです、使わないならタダでいいです。というのが僕のやり方です(笑)。なぜそういうことをやるかというと、僕はベンチャーの経営者と仕事をすることが多いんですが、彼らは「提案まで2週間ください」なんて言われても待てないんです。今すぐコピーが欲しくて、何なら今日にでもWebサイトに反映して売り上げがどう変わるのか見たい、という人たちだから。

だからコピーをその場で書いて渡すとめちゃくちゃ喜ばれます。ものすごく僕は便利な人なんですよ。ベンチャー界隈では、ChatGPTならぬ「梅田GPT」と呼ばれています(笑)。

松永:本当に便利そう…(笑)。

梅田:でも、確かに言い得ているところはあって、ChatGPTって、いいインプットをしないと、ろくなものが出てこないでしょう? そこは同じなんですよ。だから最初に経営者さんにも「いいインプットをいただければ、良いのが出ますから」と伝えています。そうすると、みんなどんどん喋ってくれます。

写真 人物 梅田氏

松永:逆に言えば、梅田さんが創作するわけじゃないということですね。

梅田:そこは本当に大事なところですね。コピーライターの仕事で危険なのは、「書けるようになる」ことだと僕は思っています。つまり、「無いことを書けてしまう」。競合に勝つため、クライアントを喜ばせるため、大きな認知を取るため…創作を始めてしまう。創作できてしまう。でも、それは噓じゃないですか。僕はそこに対する戒めを自分にすごくしていることもあって、目の前にいる人が言ったことを純粋にインプットとして受け取って、それを時間内にアウトプットするのをルールにしています。

松永:この一覧の次にある「プロンプティング」「生成AIの出力文章の品質管理」というのは?

梅田:生成AIを使う時には日本語で入力して出力しますよね。そこはコピーライターの出番だなと思っています。プロンプティングに関しては、コンサルティングとツールの開発の両方に取り組んでいます。そして、出力された文章に対しても、これがいい文章なのかどうか? と判断できる人は案外少ないので、それをやってほしいという要望にもお応えしています。

松永:言葉の「目利き」ということですね。

梅田:そうです。いい文章か、人の心に刺さるのか、アウトプットを見てプロンプトにさかのぼったりもしながら調整しています。その一連の品質管理をやっています。

あとは「大学での起業家教育」。アントレプレナー学部で、起業家の卵たちにメンタリングしながら、彼らの考えていることを言語化したり、事業で言葉をどう使っていくのかを教えたりもしています。

松永:なるほど。そこも完全に「言葉」の仕事なんですね。冒頭で「自分としてはブレていない」とおっしゃっていた意味がだんだんわかってきました。

梅田:そうなんです。僕の中ではあちこちの領域に手を広げているという感じでもなくて、色んな領域で「言葉の活動」をしているだけなんです。

ベンチャー支援の世界に飛び込んだ理由

松永:ここまでの話を聞いて、素朴な疑問として思うのは、なぜ広告会社を辞めて外に出ようと思ったのかということですね。梅田さんは広告のコピーライターとして活躍されていたじゃないですか。ジョージアの「世界は誰かの仕事でできている。」や「バイトするなら、タウンワーク。」など、よく知られているコピーも書かれていて。そのままコピーライター一本でやっていってもよさそうなのにな、と。

梅田:外に出た理由は2つあります。少し話がそれるようですが、僕、学生時代に起業してレコード会社をやっていたんです。すると、例えば、経営者として何かしら手を打たなければ後がないような状況で、手元になけなしの100万円がある。でも仮にその100万円を使って何も反応を起こせなかったら、もう会社がなくなる、さあどうする? みたいな場面に何度も遭遇するんですよ。きっと世の中のベンチャーの経営者はみんな同じような経験をしていますよね。

その一方で、広告会社の仕事では、用意された舞台の上でコピーを書いているわけです。毎年行われる数十億円の広告キャンペーンを担当する場をもらって、その中で広告を作って、僕はそこに乗っかっているだけなのに、無自覚に「自分がとても大きな価値のある仕事をしている」なんて思っている。クライアントやブランドの知名度は、長い歴史の中で他の方々が作ってきたものであるにもかかわらず、です。

「それってすごく恥ずかしいことだ」とずっと感じていました。なけなしの100万円と毎年予算化されている数十億円はどっちが重要なのか? という問いが自分の中に常にあって、僕の場合は、100万円の方が重く感じてしまった、ということです。だからそちらに自分の時間を使いたいと思いました。

松永:なるほど。それでベンチャーの支援をしようと思ったんですね。もう1つの理由は何ですか?

写真 人物 松永氏

梅田:もう1つは、先ほどの「無いことを書いてしまう怖さ」です。ある程度コピーが書けるようになると、競合や大キャンペーンなどの絶対に外せない場で、ついそれを発動しそうになる。その怖さと常に戦っていました。当時「書いちゃいけないものリスト」を自分で作っていて、その最初に来るのは「志」でした。ない志だけは書かない、書いちゃいけないと。

そう考えた時、ベンチャーというのは志しかないんですよ。お金がない事業はあるけど、志のない事業はない。だったら、ベンチャーの世界に行って自分の力を精一杯使おう、禁則事項のない世界に飛び込もうと思ったんです。

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宣伝会議 書籍編集部
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宣伝会議書籍編集部では、広告・マーケティング・クリエイティブ分野に特化した専門書籍の企画・編集を担当。業界の第一線で活躍する実務家や研究者と連携し、実践的かつ最先端の知見を読者に届けています。

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