「コピーライターで終わるか、『言葉の活動家』になるか」梅田悟司×松永光弘

コピーライターというだけで、社会の希少種である

松永:苦労してコピーを書けるようになったあと、それを「言葉」として広い場所で使おうと考えたきっかけは何だったんですか?

梅田:広告会社に入って8年目の時に、あるベンチャーの経営者とお話ししたことがあったのですが、そのとき僕は話を聞きながら、気になる言葉を書き留めて最後に渡したんです。それだけでその人はすごく喜んでくれて。「こんなふうに僕たちの仕事を受け止めてくれる人に出会ったことがなかったな」って思いましたね。その時に、志はあるのに、言葉として形になっていない状況が世の中にはたくさんある、コピーライティングの力を使えばそれを言い当てられる、と気づいたんです。

松永:言い当てるのって、簡単じゃないですからね。

梅田:コピーライティングができるようになるまで能力を磨くのって、めちゃくちゃ時間がかかるじゃないですか。そして、コピーライターのように言葉の力を磨くためだけに時間を使うことが許されている人、そういうチャンスを与えられている人は圧倒的に少ない。実はそれだけでも、社会の希少種なんですよ。

松永:コピーライターという時点で、すでに貴重な存在であると。

梅田:そうです。コピーライターとしてのレベルがどうだという話も関係ありません。レベルを気にするのは、似たような人たちが周りにいるからです。例えばコピーライター養成講座なら「誰かが鉛筆を5本もらったけど、自分は1本しかもらえなかった」みたいな話が出ますよね。広告業界で働いていれば、あの人は広告賞を獲ったが自分は獲っていないと思ってしまうこともある。でも業界から一歩離れれば、そもそもそんなレベルでコピーをとらえる人もいないし、書ける人も少ないわけだから、比較されることもないんですよ。

だから、僕は入社13年目で広告会社を辞めて、いまはいろんな仕事ができていますが、コピーライターのランキング上位にいたから外でも活躍できたということでは全くないんです。広告賞も、TCC賞はいただけましたが、朝日広告賞も、読売広告賞も一つも獲っていないです。でも、コピーの書き方は自分なりに研究して方法論も見えていたから、それを外に持って行っただけなんです。

価値の変換をしながら言葉を紡ぐ「言葉の活動家」へ

松永:ここ数年「言語化、言語化」って、みんなすごく言うじゃないですか。とにかく言葉にしようと。ただ、今の話で言うと、言語化しようと思ったところで、すぐにできるわけではないともいえますね。やっぱり、できる人は努力や研究を重ねてきていると。

梅田:僕も『「言葉にできる」は武器になる』という本を出しているので、言語化の方法論の提供はしています。でも、知っているのと実際にできることは、また違った話で。本当に言語化したいことを言語化すれば人に届くのかというと、それもまた別ですしね。

松永:本当にそうです。そこには価値の変換、もしくは価値の翻訳ともいうべきものが必要で、それがまさに広告的発想の大事なところですよね。

梅田:モノ(商品)の話なのか、モノと人の話なのか、モノと社会の話なのかみたいな、その中で価値の変換をしながら考えていく。それができるのは、コピーライターの大きな強みだと思います。マーケティングでは、「物理的ベネフィット」「情緒的ベネフィット」「社会的ベネフィット」の3層で考えようと言われます。コピーでも情緒の話が大事だとよく言われると思いますが、僕は、その商品やサービスを作った人に、社会的な意味を提供することが、とても大事だと思っています。

例えば橋を作っている人がいたとして、その人は「仕事だからやっている」と思っているかもしれないけど、「あなたの仕事は、地図に残る重要な仕事ですよね」と言えば、その人は自分の仕事に新しい意味を発見できるかもしれない。

冒頭の話に戻りますが、コピーライターもそうですよね。普段は、コピーライターという肩書だからやっている、あるいはアサインされたから書いているというように、目の前の仕事として向き合ってしまっている人があまりに多い。その先にあるもの、つまり、言葉の持つ役割や真のチカラの先に広がる地平まで想像できている人は実は少ないんじゃないかと思うんです。

まずは自分が書いているのは、コピーではなく、言葉だと自覚する。その上で「ここに言葉があればもっとこの仕事はうまくいくのに」と感じる瞬間があったら、広告の仕事じゃなくても、言葉が大好きな人としてそこに出ていく。これを「言葉の活動家になる」と僕は言っています。コピーライティングで身につけた広告的発想を使いながら、「コピーを書く人」から「言葉の活動家」へと自己規定を変えていくんです。そうすれば、コピーライターの活動範囲は自ずと広がっていくはずだと思います。

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写真 トークイベントの様子

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梅田悟司(うめだ・さとし)

コピーライター。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 教授。

生成AIの活用によって企業の生産性向上に貢献するワークワンダース取締役CPO。1979年生まれ。大学院在学中にレコード会社を起業後、電通入社。2018年にベンチャーキャピタル(VC)であるインクルージョン・ジャパン取締役就任。ベンチャー支援に注力した後、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の開設に伴い、教授就任。現在に至る。主な仕事に、ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括などがある。直近では、日曜劇場『VIVNAT』にコミュニケーション・ディレクターとして携わり、作品の魅力を日本中へと広げることに尽力した。著書にシリーズ累計35万部を超える『「言葉にできる」は武器になる。』(日本経済新聞出版社)がある。同書は、2022年度、高等学校における国語教科書『新編 現代の国語』(大修館書店)に掲載された。また、4ヶ月半におよぶ育児休暇を取得し、その経験を踏まえた『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)を執筆し、名もなき家事ブームの火付け役となった。最新著作は『言葉にならない気持ち日記』(サンクチュアリ出版)。発行累計部数50万部超。

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松永光弘(まつなが・みつひろ)

編集家。

1971年、大阪生まれ。「編集を世の中に生かす」をテーマに、出版だけでなく、企業のブランディングや発信、サービス開発、教育事業、地域創生など、さまざまなシーンで「人、モノ、コトの編集」に取り組んでいる。これまで20年あまりにわたって、コミュニケーションやクリエイティブに関する書籍を企画・編集。自著に『「アタマのやわらかさ」の原理。クリエイティブな人たちは実は編集している』(インプレス)、『伝え方──伝えたいことを、伝えてはいけない。』(クロスメディア・パブリッシング)、編著に『ささるアイディア。なぜ彼らは「新しい答え」を思いつけるのか』(誠文堂新光社)、『伝え方――伝えたいことを、伝えてはいけない。』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

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宣伝会議 書籍編集部
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宣伝会議書籍編集部では、広告・マーケティング・クリエイティブ分野に特化した専門書籍の企画・編集を担当。業界の第一線で活躍する実務家や研究者と連携し、実践的かつ最先端の知見を読者に届けています。

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