宣伝会議の教育講座に、クリエイティブディレクター/コピーライターである小藥 元さんを講師に迎えた特別クラス「コピーライター養成講座 小藥クラス」が開講します。
講座を担当するにあたり、小藥さんが改めて考える言葉の価値や、コピーライターの役割について4回にわたってお届けします。
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「中心を発見する仕事」
表層を撫でていい気になっている言葉が実に多い。バットの先でホームランにできるのは、幸運か大谷選手ほどの特異な才能以外は難しいのではないだろうか。どんな仕事でもコアを見つけなければいけないと考えている。
それはコンセプトという言葉では少し足りない。「中心に何を見つけたのか」ということ。「問題・課題の本丸」はどこで、「ブランドの芯にある価値」は何で、「戦略の真ん中」は何だということ。「で、一言でいうと何?」という問いに、すぐに答える用意はできているか。
勝手に述べるだけなら誰でもできる。強く語れるか、深く共感してもらえるか。コピーを書く手前に、コピーを話すまでに、コピーライター/クリエイティブディレクターには大きな仕事がある。
経営者は「表現がしたい」わけでも「CMがつくりたい」わけでもない。悩みを解決したい。事業や企業を成長させたい。目的がずれていては、話が噛み合うはずもなく、永遠に対峙する場所にいけない。
それは同時に「広告」しか見えていないことからの卒業も意味する。「あれもこれも言いたい」「これもそれも価値」そうなりがちな膨大な情報を削ぎ落としながら、埋もれたセンターピンを浮き彫りにする。
「core&copy」として夏からはじまるmeet&copy講義の1回目で話したいと思う。
「北極星を指し示す使命」
ライターはごまんといるが、クリエイティブディレクターも溢れている。テレビやメディアには、私が作品を存じ上げないクリエイティブディレクターという肩書きの人がたくさん見受けられる。仕事の中身よりもフォロワーや映えが正義になる時代に、書いてきたものがすべてだと思ってきた私の信念が負けている。
愚痴りたいわけではない。ディレクションとは方向性のこと。ブランドをどうスイッチさせたいのか、どこへ向かうべきなのか。企業が目指す場所を、プロのコピーライターは明確に言語化する。
未来を語れないなら、迷う人も不安で離脱する人も、たくさんでてきてしまうだろう。どんな仕事でも、北極星を指し示さなければいけないと思っている。それは同時に「広告」からの拡張を意味する。
コピーは日記でも大喜利でもない。得意先が言っていることや言いたいことを、嫌われないようになぞる係でもない。私は、言葉の中に矢印をみる。コピーには多用な用途があるが、基本的にベクトルのないコピーは自分で採用しないし提案しない。
meet&copy講義の2回目は、「direction&copy」でいこうと思う。
「クリエイティブが100点を超えていく」
表現はホームランに変える力を持っている。お土産に悩む百貨店で、可愛いパッケージとお茶目な名とインスタ映えする形状をあなたが選んだように。
ただの赤字商品で、ほとんどの流通先に入れていなかった冷え性の靴下(旧名:三陰交をあたためる)があった。それを「まるでこたつソックス」と名を変え、パッケージデザインを変えた。その後の何十億・何百億にのぼる売り上げや話題をご存知の方もいるかもしれない。
当時私は、課題の真ん中(core)を捉え、伝えるべき価値を整理した。冒頭の通り、その作業はとても大切だ。売れなかった理由が詰まっているから。
「まるでこたつソックス」という名や、サプリ型のデザイン(靴下サプリシリーズと同時にそのとき名づけたから)が無ければ現在地点のあの「ブランド」にはならなかったと思う。競合(冷えから守る機能を持つ靴下)はごまんとある。だから埋もれる。だから流通に入らないものが出てくる。
誤解を恐れずに言えば、細かい機能ではなく「ブランド」がそれを超えていく。機能は真似ができたり、違いがわからないものも多いからだ。ブランドを作る上で、モノの力に加えてクリエイティブは必要不可欠。
「ガリガリ君とアイスキャンディーの違いこそがブランドである」
このことは先日のブレーンに寄稿したので、興味ある方は是非読んでいただきたい。
ここまで書いてもクリエイティブがすべてだと私は言わない。強いコアと明快なディレクションの先に、クリエイティブがあると思っている。HOWに逃げないためにも、2つを染み込ませたい。
「仕事は共創」
言葉は半分しか翼を持っていない。デザインがなければ正しく飛べないし、デザインによって言葉は何倍も力を持つ。デザイナーが最初の共創パートナーになる。
デザインだけではない。先日、クライアントマーケチームとデザイン会社に集結し、データを引っ張り出しながら、企画を詰めていた。その場所にはCMOも呼んでいる。チームで作業をすることで、プロジェクトにコミットメントや愛着が生まれる。むしろ私という外部がいるからこそ、社内を繋ぐこともできる。
大きなコアと北極星を示し、クリエイティブをより高めていくフェーズに入ったら、そこはクライアントも私たちもワンチームで立ち向かえばいい。それもまた私のクリエイティブディレクションなのかもしれない。
デザイナー(古谷萌AD)との共創の時間、デザイナー・カメラマン(相楽賢太郎AD・中村力也P)との共創の回を講義の中に入れる。クライアントも最終回で来ていただこうと思う。
一人紙に書くだけではない仕事の面白さや本質を感じてもらえたらと思う。
「学ぶという尊さ」
昨年の終わりに、コロナ・マイコプラズマ・インフルエンザと繰り返してしまった。持て余す時間の中で、岩崎俊一さんと秋山晶さんの仕事集を若手時代以来だろうかおもむろに見返した。
岩崎さんの本では、私は何もわかっていなかったと愕然とした。
秋山さんの本では、背中との圧倒的な距離を理解し呆然とした。
あの頃は、見方や読み方が、わかっていなかった。そのときはじめて「学ぼう」と思った。その姿勢に気づく自分がまさかの20年目で心底情けなかった。
だから私はいま1年目の気持ちでいる。つまり42歳の新人だ。年末抱いた絶望はなかなかに辛かったが、だからこそまだまだ上手くなれる気がする。余白しかないのだとすると嬉しくもある。
そんなおじさん新人が先生ぶって申し訳ないが、meet©はゼミのようになれたらと思っている。出会いこそが私の独立人生を作ってきたし、これからもそうだと思う。いい出会いになれたら幸いです。
コピーライター養成講座 小藥元クラス meet© 概要
◯開講日:2025年7月24日(木)19:00~21:00
◯講義回数:全6回
◯開催形式:教室とオンラインを各回自由選択できるハイブリッド開催
◯詳細・お申込はこちらから
<無料体験講座も開催>
7月2日(水)19:00に体験講座『design© 番外編
「C→D→C デザインに愛されるコピーの条件とは?」』を開催!齊藤智法氏(デザインで株式会社)、増田総成氏(RABBIT)をゲストに迎え、講座で学ぶこと、コピーの考え方、戦略ワードとコンセプトとコピーの違いなどを解説します。詳細はこちら
