ロングセラーブランドが抱えていた課題
1979年の発売以来、「パイの実」は「唯一無二のパイのお菓子」という機能価値と、「絵本のようなほっこりする世界観」という情緒価値を2本の柱としてブランドを成長させてきた。パッケージに描かれた森とリスのイラストは、多くの生活者に親しまれてきたブランドの象徴的な資産である。
しかし、その世界観は具体的な設定に乏しかった。久保田氏は、ブランドが抱えていた課題について、「発売当初から『パイが次々となる不思議な森』『その森にいるリス』という設定はありました。しかしそれ以上の世界観設定はなく、単なるかわいらしい絵本のような世界観というイメージで止まってしまっていることが、ブランドロイヤリティの醸成には今一歩足りていない部分が課題でした」と説明する。
一方で、顧客からは「『パイの実』のパッケージって絵本みたいでかわいくて癒やされる」といった声が多数寄せられており、この世界観にポテンシャルがあることもまた事実であった。さらに、ブランドのメインターゲットは40代女性が中心であり、その子ども世代である若年層は、幼少期に実家で食べてたことがあるブランドイメージが根強く、成長するにつれてブランドから離反してしまう傾向があった。これらの課題を解決し、ブランドを次世代へとつなぐために、情緒価値の源泉である世界観の再構築が求められていたのである。
顧客の声から始まったIP化への第一歩
世界観強化への具体的なアクションは、顧客の声が起点となった。2024年9月、ロッテは「パイの実」発売45周年を記念し、児童書出版社のフレーベル館と共同で初の市販絵本『パイの実 森の絵本 いっしょって いいね』を発売した。これは、長年寄せられてきた「パッケージが絵本のようだ」という声に応える試みであった。
この絵本化を機に、これまで固有名詞のなかったパッケージの2匹のリスに、初めて「パイル」と「ロクシー」という名前が与えられた。これは、デザインの一部であったリスを、人格を持つ「キャラクター」へと昇華させるための重要な一歩であった。
