4年前から始まった「自分たちは何者か」の問い直し
施策の起点は、周年のはるか手前にあった。シップス 執行役員 営業本部 本部長の植松剛平氏(当時は管理本部長も兼務)によれば、50周年の約4年前から、店舗の店長・エリアマネージャーや本社の部課長を集めたワークショップを実施していたという。テーマは「SHIPSとは何者であり、何をしていくべきか」。管理部門・人事部主体で進めたこの取り組みは、経営層を含む全社的な議論へと広がった。
世代間のギャップが浮き彫りになったことが、議論を深める契機になった。植松氏は「若いときはもっと先進的なものを求め、物足りなさを感じていたが、洋服のルーツや歴史を学ぶ中で、時代に左右されない価値があることに気づいた」と振り返る。先人が大切にしてきたものと、若い世代の感性。その両方を受け止めながら、義務的に押し付けるのではなく、自然に伝えていく場としてワークショップは機能した。こうしたインナーブランディングの蓄積から「進化する老舗」というプロジェクトキーワードが生まれ、後のクリエイティブの土台となっていく。
データが示した「離反する40代」という課題
ワークショップで方向性を固めた後、シップスは50周年施策の具体的なターゲットを定めるためにデータ分析に着手した。販売促進部 プレス課 課長の中西摩耶氏は、既存顧客・新規顧客・休眠顧客の3つのセグメントを精査したと説明する。コロナ前に20代後半から30代前半だった顧客が、コロナ後には30代から40代へと移行し、その層がSHIPSから離れている実態が浮かび上がった。
CRM課 課長の三瀬崇弘氏は、この発見のインパクトを次のように語る。「元々強いと思っていた40代が、ボリュームは最も大きいのに離反も一番大きかった。新規を幅広くリーチするのではなく、元々利用いただいていた方にSHIPSを思い出してもらおう、接点をもう一回つくろうというキーワードが固まった」。周年という特別なアテンションを、休眠顧客の呼び戻しに活用する。この判断が、オリエンテーションの骨子となった。
ブランド人格をまとったメッセージ
コンペを経てクリエイティブを担ったのは、ファッション領域に強みを持つ博報堂Gravityを中心としたチームだった。博報堂Gravity クリエイティブディレクターの宝蔵寺亮氏は、オリエンを受けた際の第一印象をこう述べる。休眠顧客をターゲットに据えるのは「正しい選択」だと感じた一方で、ファッションブランドが50周年を掲げることの違和感も意識したという。トレンドを追いかける業態において、30〜40代の顧客に対して「50歳のブランド」と打ち出すことは、歴史への共感を得られる半面、古さを印象づけてしまうリスクもある。「進化する老舗」の捉え方が極めて重要だと感じたと振り返る。
博報堂キャビン コピーライターの野澤幸司氏に相談が持ちかけられた。野澤氏は「この仕事はメッセージが大事だと最初に明確に感じた。格好つけた表現で切り抜けられるような内容ではない」と語る。着目したのは、企業が提供するものと企業が放つメッセージの「人格」を一致させるという考え方だった。SHIPSがつくる服と、SHIPSが発する言葉が、どこかでつながっていると感じられることが理想。時代が変わっても動かない根っこをまとった言葉を探した結果、最初に出てきたのが「青いまま進む。」だった。
当初は英語の「Stay Blue」という案も並行していた。しかし、コロナ禍直後の時期と重なり「ステイ」という語感が立ち止まりの印象を与えかねないこと、また老舗としての進化のニュアンスを入れたいという意図から「進む」を加えた。「今まで大切にしてきたものを胸に刻みながら、それでも進む。その両方を言い切るのは難しかったが、船というモチーフがあるからこそ成立した」と野澤氏は説明する。
シップス側の反応は明快だった。植松氏は「本当にSHIPSっぽい。コーポレートカラーのネイビー、誠実さ、若々しさ。この一言でSHIPSをまとめて表現していただいた」と述べ、ボードメンバーを含む経営陣からも高い支持を得たという。中西氏も「潔く、わかりやすい。言葉の力がある提案だった」と評する。社内でさまざまな意見が拡散していた議論が、このフレーズによって一つの方向に収束した。
