「マツケンまみれ」の土台にある“届く広告”の考え方――『出し手発想』から『受け手発想』へ【前編】

みなさまはじめまして。博報堂のクリエイティブ・ディレクター河西と申します。

このたび、コピーライター養成講座 河西智彦クラスを開講するにあたり、SNSを中心に情報が拡がっている八景島・シーパラダイスの企画『マツケンまみれ』についてのコラムを、というありがたいオファーをいただいたので書かせていただきます。

といいつつ、マツケンまみれは単なる思いつきでつくったものではなく、どんな予算でも売上増を実現する視点や方法がベースになっています(ゆえに集客増・売上増につながる『効果を出すSNS拡散』にもなっています)。

そこで、コラムを2回に分け、1回目の今回は、現代のメディア環境認識や広告への接触態度知識、など、マツケンまみれ施策の基礎にある『売上増につながる、届く広告づくりの考え方』について書かせていただきます(お前なんぞの御託はいらない、と思われることでしょう。大変申し訳ありません)

はじめに:広告が届きにくい時代

みなさんが最近目にした広告で、覚えているものはありますか? 講演や講義で問いかけると、ほとんどの人が「覚えていない」と答えます。たしかに近年、広告が届きにくくなっています。発信はするものの、『あまり届いていない』感覚です。

理由は複数あります。が、いちばん大きい要因は世の中の情報総量が膨大になっていることでしょう。僕たちは『好きな情報以外は』素早く済ませ、さらっと撫でるように情報を得ています。0クリック検索やニュースのタイトル読みが拡がっているのもそれゆえです。

このような状況になると、自分に必要ない情報でもある『広告』はとても不利です。文学的なキャッチコピーの意図まで深く考えてくれる人は少なくなり、理論上は届くはずのSNSやWEBの「ターゲティング広告」も見過ごされがちになります(運用広告も苦戦しているというニュースも目にします)。ではこのような時代でも広告を届かせるにはどうすればいいのか。僕は『企業や広告制作者が、出し手視点を捨て、受け手視点や発想で広告を発信できるか』が最重要だと思っています。

メディア環境の変化と、届きにくくなった『企業視点の発信』

日本では、家族みんながTVの前に座り、食い入るように見ていた時代が長く続きました。他に見るものがなかった環境に加えて、TVは画面が大きいため、視野における専有面積が広いメディアで、目を離しにくくさせる効果もあります。

こうなると、「私たちはこういう企業です」や「うちの商品はここがすごい!」と『出し手側の視点:出し手発想』で企業が言いたいことを伝えても見てもらえました(つまり広告が届く)。そして面白いCMは流行しました。

しかし現在、メディア環境は大きく変化しています。目を離しやすい手のひらサイズのスマホが情報取得ツールとなり、TVを見ない人も増えました。TVを観るときもスマホを見ながらです(ドラマやスポーツ番組中のリアタイ投稿が多い理由)。TVではCMになったらスマホを見ればいいし、スマホの中で広告が挟み込まれても簡単に目を離せます。このような環境で「私たちはこういう企業です」や「この商品はここがすごい!」とこれまでのように『出し手視点・発想』で伝えてもなかなか届きません。

ただし『出し手視点・発想』からの脱却は簡単ではありません。上の世代から受け継がれているので、事業会社側も広告会社側も、身体に染み込んでいます(企業全体の視点になっていることもあるでしょう)。また、5年前ぐらいまではまだ効果があったため『成功体験』でもあります。

『出し手視点・発想』から『受け手視点・発想』への意識の転換

では出し手視点・発想をどう変えればいいか、といえば『受け手発想』への意識転換です。

僕たちは広告の発信者ですが、広告を見る生活者でもあります。生活者として、つい見てしまった広告やまったく興味を示さなかった広告(たいてい覚えていないものですが)の経験が誰にでもあります。これが受け手視点・発想です。この受け手視点で「自分たちが発信するこの広告を生活者の自分は見るだろうか」「家族や友人やそこら辺を歩くターゲットは見てくれるだろうか」と考えるだけで、『広告』が変わります。

とくに広告予算に限りがある場合は、事業会社と広告会社、チーム全体で出し手発想を受け手発想に変えたり、同じ視点の人を集めてチーム作りをすることで効果はかなり上がります(欲を言えば決裁ラインも同じ視点だとさらに効果が出ます)。

多少難しく感じるかもしれませんが、意外と簡単に視点は変えられます。八景島シーパラダイスさんでも同様のお話はさせていただき、すぐに『受け手視点』になっていただけました(そもそもそうだったのかもしれません)。
この視点はマツケンまみれゆうえんちをつくるうえで、まず大切なことでした。

生活者の情報視聴態度:なぜニュースやSNS拡散は届くのか

ではもう一度メディア環境に戻ります。メディア環境の変化にともない、同じく変化しているのが、生活者の情報への視聴態度です。

下の図で態度を、良い・悪いの2軸でプロットしてみました。

あまたある情報の中で、いちばん見てもらいにくい(悪い)のがWEB広告やSNS広告です(効かないわけではありません。ただ視聴態度が良くない、という意味です)。ネット広告は興味を持ってくれそうなターゲットに情報を露出できるので、理論上は最強の広告です。しかし「暑いから涼しい場所どこかにないかな」など生活者が前傾姿勢になる瞬間以外は、「早く広告終わらないかな」「スキップできないとイラッとする」ともなりがちです(よくニュースもなります)。

ネット広告よりもまだ視聴態度が良いのが、TVなどのマス広告です。かつての視聴態度が残っているのと、やはり視覚全体における専有面積が広いことが理由でしょう(とはいえ、徐々に悪くなってきています)。

一方で、「〇〇が人気」や「✕✕が話題」などのタイトルのニュースや記事をクリックして読んだ経験はないでしょうか。それがPR(Earned Media)です。また、SNSでフォロワーから「これ面白い」や「アホすぎる」などの文章とともに流れてきた動画や広告を見てしまったことはないでしょうか。それがSNS拡散(Shared Media)です。

クリックしてしまった、見てしまった、それだけで他の広告に比べて視聴態度が良いことがわかります。これが、PRやSNS拡散が届く理由です。

それゆえ、僕はほぼすべての業務でPRとSNSによる情報拡散を絡めます。100%露出や拡散につながるわけではないのがPRやSNSのデメリットですが、一方で、予算が少なくてもアイデアで露出や拡散できるのがメリット。そこでデメリットを消すべく研究し、PRはほぼ100%露出できるぐらいになっています(SNS拡散確率は50%ぐらいですが、それでも高いほうではないでしょうか)。また、予算に制限がある業務ではPRやSNSだけで情報露出・拡散をさせることも多く、これが予算にかかわらず売上増を実現できる理由です。

マツケンまみれ施策は、まず全体予算からメディア構造を考えています。予算を考えると、動画や交通広告を打ってもそこまで多くの人に届かないので、情報接触態度が良いPRやSNSを使って情報拡散させて届かせるキャンペーン構造を選択しています。

そしてそのために、広告費の多くを、中身の体験づくりにまわすと同時に、PRやSNS拡散でより必要となる『受け手視点・発想』で表現を考えていきました。


後編では、キャッチビジュアル・ネーミングや体験づくりのポイント、そして『マツケンまみれゆうえんち』がどうやって企画されたのかをお届けします。

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開講日 2026年10月19日(月)19:00~21:00
講義回数 全8回  ※隔週月曜日開催
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河西智彦

博報堂
クリエイティブ・ディレクター/CMプラナー/コピーライター/アクティベーションプラナー

1999年博報堂入社。 7年間の営業経験、2度のクリエイティブ適性試験不合格を経てクリエイティブ局に転局。他にないアイデアや表現をPRやSNSで拡散させることで、予算に関わらず企業の売上を確実に増加させるクリエイティブ・ディレクター。TVCM、コピー、プロモーション以外にも、関西万博の企業ブースの企画総合演出もおこない、事業開発、PR、SNSバズ、売上増コンサルなど、幅広い手法をつかって売上を増やしている。
V字回復事例も多数。 ACC マーケティングエフェクティブネス部門にてグランプリ2回、カンヌライオンズ金賞、TCC賞、JPMグランプリ、広告電通賞グランプリ、など国内外100近くのグランプリを受賞。著書『逆境をアイデアに変える企画術』

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