百貨店の閉店というと、店長が最後の挨拶をして、従業員が並び、深々と頭を下げながらシャッターが閉まる――。いわば、百貨店閉店時の「定番の画(シーン)」だ。一方、9月30日に58年の歴史に幕を下ろした西武渋谷店では、その「定番」がなかった。閉店セレモニーを行わず、通常通り営業を終えた。
興味深いのは、その「セレモニーがなかったこと」自体が報道された点だ。10月2日付の日経MJでは、「閉店セレモニーは開かれず」との見出しも付いた。
なぜ、「なかったこと」がニュースになるのか。「広報勉強会@イフラボ」を主宰する、危機管理広報・謝罪会見アナリストの長沼史宏氏は、西武渋谷店の閉店を例に、企業広報が意識しておくべきメディアの特性を指摘する。
58年の歴史に幕を下ろした西武渋谷店(9月30日撮影)
「起きなかったこと」もニュースになる
西武渋谷店がセレモニーを実施しなかったのは、安全性を考慮した結果だ。同店は普段から人通りの多いエリアにあり、セレモニーによって店舗前に多くの人が滞留する可能性があった。担当者によると、警察とも相談したうえで「セレモニー無し」という結論に至ったという。
この判断について長沼氏は、「閉店セレモニーを実施すれば、テレビ的には非常に『撮れ高』のある場面になる。一方で、安全面を考えれば、あえて実施しないという判断もある。これは難しい判断だったと思う」と話した。
一方で、報道では記者や視聴者が「当然ある」と考えていた出来事が起きなかった場合、「期待していたものがなかった」という事実自体がニュースの要素になることがあるという。
「ニュースになるのは『起きたこと』だけではない。『起きると思われていたのに、起きなかったこと・なかったこと』もニュースになる」と強調。長沼氏は。広報担当者が知っておくべき「報道の特徴」のひとつだと指摘した。
百貨店の閉店では、店長らが最後のあいさつをし、従業員が並んで一礼する中でシャッターが閉まる光景が珍しくない。今年2月末に閉店した名鉄百貨店本店でも閉店セレモニーが行われ、社長のあいさつや閉店を惜しむ人々の様子が報道された。
