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東京と地域のクリエイターが交われば、日本のクリエイティブはもっと面白くなる

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地域が持つ魅力を発見し、事業化しているプロジェクトを紹介する企画展「地域×デザイン展」。2月23日から3月11日までの会期中には、地域とデザインに関連したさまざまなトークセッションも行われました。
その中で、「東京と地域、それぞれの視点で語る『地域×クリエイティブ』の仕事」と題したトークセッションに登壇したのは、クリエイティブディレクターの田中淳一さん(POPS)と、アートディレクターの平井秀和さん(ピースグラフィックス)。東京を拠点に全国を飛び回りながら各地の仕事を手がけている田中さんと、地元・名古屋の仕事を中心に、他地域にも活動の場を広げている平井さん。それぞれの職種、スタイルで「地域×クリエイティブ」の仕事に携わるお二人が、地域の仕事の魅力や、向き合い方について語りました。

—「地域の仕事」って、どのようにスタートするのですか。平井さんは地元・名古屋を中心に活動されていますから、やはり紹介が多いのでしょうか。

平井:ほとんどが紹介ですね。Webサイトや書籍・雑誌で僕の仕事を見かけたのをきっかけに、メールで相談をくださる方も多いです。ある地域の仕事が、別の地域の仕事につながっていくことも少なくありません。例えば、「伊豆花遍路 手ぬぐいスタンプラリー帳」は、熱海の仕事を5年ほど手がけていたことがきっかけで、つながった仕事です。

伊豆花遍路 手ぬぐいスタンプラリー帳(平井さんの仕事)

—企業からは、どんな形で相談がくるものなのでしょうか。例えば、平井さんの「大和屋守口漬」のお仕事は、デザインの依頼というより、「どんな商品をつくればいいか」と議論する段階からスタートしていますよね。

平井:「既存のパッケージを作り変えてほしい」といった具体的な相談をいただくこと多いのですが、目的に立ち返って、何をすべきか改めて考えるようにしています。「売上を上げるために、何が必要なのか」と。

そうやって考えることが、クライアントから求められているかはわかりませんが、言われたもの直すだけでいいのかな?それで売上が上がるのかな?と考えてしまいますね。

大和屋守口漬総本家「守口漬ふりかけ」(平井さんの仕事)  関連記事はこちら

田中:広告会社出身ということもあり、そのつながりで紹介されることが多いですね。自治体の仕事だと、入札・コンペに参加してほしいと、呼ばれます。

あるいは、自治体・行政の幹部の方向けに、シティプロモーションに関する講演をしてほしいという依頼をいただき、そこから関係が生まれて、仕事になるケースもあります。講演依頼のきっかけは、「雑誌や書籍、SNSで見た」という方が多いですね。

—さまざまな相談を受けると思いますが、それが「仕事」として成り立つかどうかをどのように判断するのでしょうか。

田中:例えば、映像を制作するのに、予算が100万円だったとする。やりたいのは山々ですけれど、僕のギャラと交通費を除いたら、映像会社に支払える制作費は50万円ほどしか残りません。どこかが、誰かが、無理をしなければいけない構造になるのを防ぐため、予算面での“最低ライン”のお話は最初にするようにしています。それを省いてどんどん進めていってしまうことは、地域のクリエイターの首を絞めることにもなりますから。

平井:僕が手がけることの多いパッケージデザインの話をすると、パッケージに使える予算というのは、商品の売り値からある程度見えてくるものです。それを見据えて、可能な範囲の提案するか、まずは度外視するか、デザイン提案には2つの方向性が考えられます。

いずれにしても、デザイン費と印刷費は分けて考えていただくようにしています。広告であれば、「デザイン費を削って、その分を印刷費に回そう」というようなことが可能かもしれません。しかしパッケージの場合は、“ちょっと無理をした1円”が、数年、数十年と積み重なって、企業にとって大きな負担になることが考えられますから。

田中:東京の仕事と、地域の仕事は、価格設定を含めて分けて考えるようにしていて、地域の仕事は極力受けるようにしています。

課題は、「アイデアは、フィーをもらうべきもの」と理解していただくことです。
というのも、地域におけるデザイン業務は、印刷会社が“印刷のついでに行うもの”という位置づけで捉えられているケースがまだまだ少なくない現状があるんです。

「いいアイデアにはフィーが発生する」ということをきちんと説明し、見積もりを出してから、プロジェクトがスタートする。そのプロセスを、僕らのような「外」の人がリードしていかなければいけないと思います。地域のクリエイターにはなかなか主張しづらいところですから。

また、仕事の進め方も、東京と地域では異なります。例えば、予算規模の大きい東京の仕事では、求められるアイデアの数も多いのですが、地域の仕事では1〜2案にぐっとフォーカスするようにしています。いわゆる、“通すための案”はつくらないようにしているんです。決裁者に説明する際のコンテも、必要以上にクオリティを高めず、手書きの字コンテを使うことも少なくありません。

「書類を回すための書類」を用意するなど、東京の仕事の進め方はややトゥーマッチなところもあります。地域の仕事では、そういうものをそぎ落とし、作業効率を高めて、一番大切な「アイデアを考える」ところが疎かにならないようにしているんです。そうしないと、一緒に動くスタッフも疲弊しますし、地域の仕事が「ボランティア」のような位置づけになってしまいます。

次ページ 「平井さんと田中さんは「地域の仕事」を手がけている点では共通していますが」へ続く