多くの企業が取り組む「人的資本経営」 現場が感じているギャップとは?

人的資本経営の重要性は広く認識されている一方、その実践には多くの企業が課題を抱えている。サステナビリティ領域で企業支援を行うサスティービー・コミュニケーションズ代表の福島隆史氏に、現場の実感を聞いた。

「正しい」が実装は難しい

──人的資本経営という言葉は広く浸透してきましたが、どのように捉えていますか。

当社はサービス業ですので、人がすべてです。レポート制作も当社の強みであるコンサルティングも、すべて人が生み出すものですから、人的資本が重要であるという点には違和感はありません。

「資本」と言う以上、本来は投資対象として扱うべきものです。しかし実際にそこまで十分な投資ができているかというと、難しい面もあります。

──戦略と人的資本を結びつけるべきだという議論もあります。

方向性としては妥当だと感じています。ただ、それをどのように実務として実現するのかと考えると、簡単ではありません。

現実には、まず採用自体が難しい状況です。戦略に適合した人材を計画的に確保するというよりも、そもそも人材を採用できるかどうかの段階で、大きなハードルがあります。理想として語られている内容と、現場の実態には一定の距離があると見ています。

もうひとつ申し上げると、人的資本という言葉自体は整理された概念だと思いますが、実際の現場はそこまで整理されてはいません。人材は、同じように採用し、同じように育成しても、結果なり着地点は大きく異なります。個人の志向やタイミング、組織の状況などによって、大きく左右される部分があると感じています。

──たしかに、再現性という意味では難しさがありますね。

そうですね。さらに言えば、人材はそれぞれ意思を持っていますので、会社としてこうしたいという方向性があっても、必ずしもその通りに進むとは限りません。そうした前提を考えると、人的資本は他の経営資源とは少し性質が異なるのではないかと思います。考え方としては理解できても、それをそのまま実務に落とし込むのは簡単ではないというのが率直な実感です。

定着が課題

──採用後の課題としては、どのあたりが大きいのでしょうか。

人材の定着の問題は大きいと感じています。育成した人材が外部へ移ること自体は、業界全体で見れば意義がある面もあると思います。ただ、企業単位で見ると、短期間で離れていってしまう人材をいかに減らしていくかは大きな課題です。

──人的資本経営という観点では、投資との関係も難しそうです。

時間とコストをかけて育成した人材が、一定のスキルを身につけた段階で外に出ていくという構造は、企業としては悩ましいところなのです。人材の流動性が高まること自体を否定するものではありませんが、投資と成果の関係をどう捉えるかは、引き続き検討が必要だと感じています。

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