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スパイクスアジアにみる、これからのデジタルマーケティング

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受賞傾向からみる、これからのデジタルマーケティング

これら2つの事例をはじめとして、今年のデジタル部門の主な受賞作品を分類したのが以下の図です。

縦軸は、表現のアプローチでの分類です。
Emotional』とは、情緒的要素の強いマーケティング施策といえます。例えば、カンヌ受賞でも話題になった、ドコモの「森の木琴プロジェクト」は、プロダクトの本質である「木のぬくもり」を情緒的に表現した作品であるといえます。

Functional』とは、機能的要素の強いマーケティング施策です。例えば、ユーティリティアプリとしての機能を果たす、前述の「Impulse Saver」などが、これにあたります。

横軸は施策の内容によって「Ad」「Content」「Movement」という3つのカテゴリで分類をしましたが、これにより今後のデジタルマーケティングの方向性が浮き彫りになりました。
Ad』とは、企業のブランドメッセージをコアコンセプトに、精緻な作りこみを施した従来型の広告です。
Content』型の施策は、近年急激に増えてきている手法です。

デジタル領域をはじめとして、生活者のメディア接触行動が多様化するなか、私たちは自由に情報を取捨選択できるようになっています。このようななかで、以前にも増して、企業主体のメッセージは「不要」であると認識されやすくなっています。そこで、企業のブランドメッセージだけでなく、生活者ニーズを考慮に入れ、より「エンタテインメント」要素を強く打ち出し、生活者の「自分ゴト化」を促進しようというアプローチが多くなされるようになりました。

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「ユニクロ誕生感謝祭」に先立って行われたユニクロの「LUCKY LINE」は、Content型に分類することができます。ツイッターと連動してバーチャル行列に参加し、特典をゲットできるというキャンペーンで、「バーチャル行列」というエンタテインメント要素を通じてユーザーのコミットメントを高めています。

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今回の受賞作品ではありませんが、Content型施策は、今日のデジタルマーケティングで主流になっています。例えば、インテルの「The Museum of Me」も代表事例のひとつです。

フェイスブックのID・パスワードでログインすると、ユーザーの“オリジナルミュージアム”をイメージした動画を作成することができます。半導体メーカーの技術力の高さを、ユーザーはContentsを通して間接的に体感できるつくりになっています。

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また、弊社が手掛けた協和発酵キリンの「THUNDERBIRDS Lab.」プロジェクトも同様です。これは、40~50代の男性ビジネスパーソンをターゲットに協和発酵キリンが「抗体医薬に強みを持つ製薬会社である」との認知を向上させるとの目的で実施したプロジェクトです。ターゲットに馴染みが深い「THUNDERBIRDS」のキャラクターを活用したオンラインスクールという形式で、分かりやすく「抗体医薬」を理解してもらおうという狙いがあります。

Contents型施策から、さらに一歩進んだ手法を『Movement』として位置づけました。
今回のスパイクスアジアで、際立って受賞が多かったのが、このカテゴリです。

Movementとはエンタテインメントにとどまらず、生活者の課題を解決してくれる「仕組み」や「サービス」を通してブランドの本質的価値を体感してもらう施策です。前述の「Doggelganger」や「Impulse Saver」は、保護犬という社会問題や、衝動買い防止という生活者ニーズを解決するサービス型のプロモーションです。これらのサービスは、ユーザーが単発的に活用するものではなく、繰り返し日常生活において接触し続けるものです。このように生活者の導線に深く入り込んだMovement型の施策は、企業と生活者をコンスタントに結び付けます。

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Movement型施策は今回の受賞作品に限らずとも、徐々に増えてきています。例えば弊社が手掛けたブリヂストンのスマートフォンアプリ「VERBAL×BRIDGESTONE -『DRIVE DJ』」も、これに該当します。ブリヂストンのブランドに先進的なイメージを付加することを目的とした本アプリでは、著名なアーティスト「VERBAL」氏がプロデュースした、ドライブに最適な楽曲を無料で提供しました。楽曲を複数回にわたって提供することで、ユーザーにコンスタントなブランド体験をもたらす狙いがあります。ユーザーは定期的にアプリを通して音楽を楽しむことができ、その意味で「サービス」型施策といえるでしょう。

ここまでご覧頂いたとおり、今後のデジタルマーケティングは一層、ブランドの本質的価値を体感してもらう「仕組み」「サービス」開発の方向に向かっていくことが想定されます。今回の祭典でのジェフ・ベンジャミン氏(クリスピン・ポーター&ボガスキーCCO)の講演内容から言葉を借りれば、生活者の「人生の隙間を埋める」発想が、求められているのです。

スパイクスアジア2011を経て、生活者の「Behavior Change」を引き起こすイノベーションこそ、これからのデジタルマーケティングの目指す方向性であると確信しています。

小川丈人(おがわ・たけひと)
ビルコムCreative Division Director。1997年、総合広告代理店へ入社。各種企業のWebキャンペーンの企画提案に携わった後、デジタルコミュニケーション部門、クリエイティブ部門を経て、デジタルを活用した統合型コミュニケーション企画の戦略立案、制作業務に携わる。2011年、ビルコムに入社し現職。WOMマーケティング協議会理事。広告学会クリエイティブ委員会委員。