AKQAレイ・イナモト「MADE BY JAPAN」最終回―「The Next Generation」(前篇)

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文:AKQAチーフ・クリエイティブ・オフィサー レイ・イナモト

世界を舞台に活躍するレイ・イナモトさんが考える日本の強さとは。日本のコミュニケーションビジネスの今、そしてこれからを考える全4回の短期連載の最終回です。(本記事は、「宣伝会議」2012年1月15日発売号に掲載されたものです)

「ウチは広告代理店ではありません。」

最近、就職活動をしている学生についてこんな話を聞いた。優秀な学生たちに「広告代理店、ミクシィやグリーのようなソーシャルネットワーキングサービスを提供する会社、そして商社、その3社から、全て同じ条件で内定がでたらどれを選ぶか?」と聞くと広告代理店を最下位に選ぶ学生が多いそうだ。

この答は「え、なんで?」と思うことなのか? それとも「ああ、やっぱり…」と思うことなのだろうか?いずれにせよ、いわゆる「広告」という業界に身を置いている僕のような人間にとっては少し…いや、かなりの危機感を抱く状況だ。

アメリカは日本のように、新入社員の採用の時期がはっきりとしておらず、学生がいっせいに就職活動をするようなことはない。さらに、会社に入ってからもポンポン転職する。

特に広告・マーケティング関係の会社間での人の移動は激しい。当社はラッキーなほうで5年以上、10年以上勤務しているという社員がゴロゴロいるが、それでも新入社員は平均して2年ちょっと、もてば良いほうだ。

人材は重要な経営問題で、僕も仕事の半分近くの労力を才能発掘、リクルート、そして優秀な社員が残りたくなる社内風土の向上などに費やしている。終身雇用という習慣がほとんどない海外から見ると、ある程度雇用に安定感のある日本の企業は少し羨ましく見える。まあ、最近はこの状況はかなり変わってきたとは思うが。

あのオグルヴィ・アンド・メイザーのCEO、マイルズ・ヤングさんもこう言っている。

「私たちはコミュニケーションのビジネスではありません。オグルヴィは人材のビジネスなのです。」
“We are not in the communications business. Ogilvy is in the talent business.”

それくらい人材に力を入れており人材確保、保持が大きな課題ということだ。

しかしながら、その人材の確保も広告業界内、同業他社との戦いさえ考えていれば良いわけではないのが、最近の状況だ。

サンフランシスコのようなシリコン・バレー近辺にオフィスを構えていると、「クリエイティブ」の会社と「テクノロジー」の会社の実状が手に取るように分かる。僕らもテクノロジー関係の会社との人材の取り合い競争に多々巻き込まれる。

ここ1~2年で、たとえば当社からアップルに転職した社員は、僕の部署だけでも4~5人いる。グーグル、フェイスブック、ツイッターなどを含めればもっといる。では、この状況に対してAKQAはどう対応しているのか? 結論は至って簡単。

「ウチは広告代理店ではありません。」

僕は大学を卒業した当時、「広告」という業界の存在をほとんど分かっていなかったダメな者。今でも「この業界にどうやって入ったのですか?」と聞かれると「いや、入ってません」と答える。間接的に、この業界に身を置いてはいるが、精神的にはかなり距離も取っているのだ。この考え方がみなさんに共通して通用するわけではないのは分かっている。僕が言いたいのは「広告」に対してのスタンスを少し変えると良いのでは、ということだ。 (後篇に続く)

※後篇はこちら

AKQAレイ・イナモト「MADE BY JAPAN」バックナンバー

レイ・イナモト(稲本零)
英Creativity誌「世界の最も影響のある50人」の1人にも選ばれた、世界を舞台に活躍するクリエイティブ・ディレクター。R/GA、Tronic Studioなどを経て、2004年10月、欧米大手デジタル・エージェンシーAKQAにグローバル・クリエイティブ・ディレクターとして入社 。2008年にはチーフ・クリエイティブ・オフィサーに昇進。2010年には日本人として初めてカンヌ国際広告祭チタニウム・インテグレーテッド部門の審査員に抜擢されるなど、「広告業界のイチロー」とも呼ばれている。

『宣伝会議』2012年1月15日号
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