ソーシャルデザインとは何か?(2)なぜ、井上雄彦が表紙を描いたのか

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ソーシャルデザイン

一人ひとりが日常の生活の中で、仕事の中で、何かに気づくことによって、その気づきから動くことによって、社会は大きく変えられます。私たちはそんな動きを、「希望をつくる仕事=ソーシャルデザイン」と呼びます。
広告マーケティングに関わる方々が、クリエイターの方々が、これまで培ってきた「伝える」「巻き込む」ノウハウによって、個人の気づきを社会の大きなうねりに変えることができます。

本連載は、3月22日に発行する書籍『希望をつくる仕事 ソーシャルデザイン』の出版にあわせて掲載します。
※書店には、25日(月)から順次並びます。

福井崇人(電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表)

希望を伝える本にしたい

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井上雄彦さん(右)と筆者

私たちが本書を通じて一番伝えたいのは、自分らしいアイデアを持って臨めば、誰でもソーシャルクリエイターになれるという明るいメッセージでした。そのメッセージを伝える上で、どんな方に登場していただくとよいか、編集チームでアイデアフラッシュをしていた時、ふと井上雄彦さんのことが浮かびました。

日本では、野球やサッカーといったスポーツに比べてそのスポーツに関わっていくチャンスが限られているバスケットボール。その可能性を広げるため、井上さんは「スラムダンク奨学金」を立ち上げ、高校生をバスケ大国である米国に送り込む活動を行っています。震災復興支援やさまざまな場所でのワークショップなど漫画以外でも社会に働きかける活動を行っていて、いわゆるソーシャルマインドをお持ちの方だと感じていたからです。すると、そこにいたメンバーの中から、「表紙も描いていただけないか」と声があがりました。井上さんが描く“少年が未来を力強く見つめる絵”の表紙は、そこにいたメンバー全員の頭に浮かんだのでしょう。全員が即座に合意したのです。

井上さんの超多忙なスケジュールを考えると果たして受けていただけるのか、不安はありました。しかし、「一人ひとりが気づいて動くと社会は変わる。だから、社会の課題やその解決のためのアイデアを紹介し、多くの人たちに関わってもらうきっかけとなる本をつくりたい」とお伝えしたところ、「私も、一人ひとりが強くなることでのみ、日本は強くなると思っています」と、主旨に賛同してくださいました。本の主旨に賛同いただき、表紙そしてインタビューにご協力いただけたことは本当に光栄なことでした。

ソーシャルデザインとは、生き方そのもの

「雄勝・希望のキャンバス」プロジェクト

友人の左官職人から声をかけられて関わった「雄勝・希望のキャンバス」プロジェクト。職人たちがつくった高さ4メートル、長さ40メートルの土壁に、住民の方々が思いを込めた言葉や絵を描いていく。その隣に、井上さんも絵を描いた。

ソーシャルデザインに取り組むこと。それは、その人の生き方そのものに反映されることだと考えています。井上さんは、車椅子バスケの世界を描く『リアル』という作品を通じて、漫画家として本業でソーシャルな課題に向き合っているほか、「スラムダンク奨学金」を設立したり、東日本大震災の復興支援では地元住民とともに巨大な壁画を仕上げる「雄勝・希望のキャンパス」プロジェクト(宮城県石巻市)、老若男女の笑顔のイラストをツイートした『Smile』シリーズ、東本願寺・親鸞上人の屏風絵の派生商品の売上を寄付するなど、生き方そのものがソーシャルデザインだと感じられる面が多々あります。僕自身もソーシャルなテーマを商業ベースで動かすことの大変さを実感しているので、井上さんが漫画家として社会課題に取り組み成功を収めていることに尊敬の念を持っています。

井上さんのインタビューでは、印象的なお話をいくつも伺いました。そのひとつは、作品を描く際に、ストーリーを先に決めないということです。キャラクターを掘り下げていくうちに、自然と物語が生まれるのだというのです。描き進めていくうちに、その登場人物がどういう人なのかを発見していく、つまり先入観を持って描くことは一切しないということです。それから、「言葉を信じない」ということもおっしゃっていました。言葉というのは、簡単に解釈を与えてしまうからずるいということです。

私自身も、国際協力や開発援助などと呼ばれる領域のことに関わっていますが、言葉のイメージから入ると何も見えてこなくて、「人をみること」によって初めて個人の気づきに結びつく発見があるのだと実感しています。井上さんが言葉やイメージに頼らず、先入観を排除して人を見ていらっしゃるというのを聞いて、とても納得しました。

社会を変えるということは、言葉の定義とかシステムの話ではなくて、結局は人に行き着く話なのではないかと思います。どういう人がどんな想いで動いているのか、その人の個性がどんなものなのか。それが、実際の現場がどう動くのかに関係しているのです。ソーシャルの現場は、個人が個人とつながることによって動いています。井上さんのお話を伺って、個人として、ひとりの人間としての自分を持つことが大切なのだと改めて思いました。

slamdunk

『スラムダンク』の累計販売部数1億冊突破を機に、「バスケットボールというスポーツへの恩返しをしたい」と考え、立ち上げた「スラムダンク奨学金」。4月には、6期生が渡米する予定だ。

「自分以外の何かに、なろうとしなくていい」

Smile-1 Smile-2
Smile-3 Smile-4
2010年秋、井上さん自身が体調的にも精神的にも元気が
なかった時期、ふと笑顔の絵を描いてツイッターにアップ
したことで始まった「Smile」シリーズ。震災が起きてからは
描かずにはいられなくなり、数が増えた。

井上さんからのメッセージでとても印象深かったのは、「自分以外の何かに、なろうとしなくていい」という言葉でした。

ボランティアとかソーシャルというと、何か「いいこと」のように思えてしまうけれども、それを鵜呑みにしないで、自分なりに解釈していくことが大切です。人と比較しないで、自分を信じて生きる。それは別の言葉でいうと、「自分の生き方に自信を持て」ということだと思います。井上さんの作品には、弱くてどんくさいような部分も持った登場人物が、自分なりのやり方で頑張っている姿が共通して描かれています。井上さんはそうやって人に着目し、生き様を描いていくことを通じて、未来にある希望を描いていらっしゃるのだなと思いました。

ソーシャルデザインを手がけるには、自分自身をよく知ることが必要ですし、自分を肯定的に捉えること、自分のことが好きであることが大切だと思います。私は、井上さんとのインタビューを通じて、ソーシャルデザインを生きるということの意義を再確認し、自分自身も勇気をいただきました。


福井崇人(ふくい・たかし)

電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表。NPO2025 PROJECTの代表理事。クリエイティブディレクター/アートディレクター。主なソーシャルデザインに難民キャンプに古着を送るプロジェクト「FAMINE」、夏至の日のライトダウン、朝日新聞社「ジャーナリスト宣言」、野生トラ保護プロジェクト「Tigers Save TIGERS!」、ラブケーキプロジェクト、「COP10折り紙からのメッセージ」、カケアガレ!日本、他。カンヌ、NYADC、ADCなど受賞多数。金沢美術工芸大学、熊本大学、上智大学、宮城大学非常勤講師。書籍のプロデュースに 『たりないピース』(小学館)『Love Peace & Green たりないピース2』(小学館)『エコトバ』(小学館)『世界を変える仕事44』(ディスカバー21)『この子を救うのは、わたしかもしれない』(小学館)ほか。

【「ソーシャルデザインとは何か?」バックナンバー】

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